さわやかサバイバー

好きな作品の感想を書いています。カテゴリー一覧は50音順で並んでいます。

GIANT KILLING 単行本第46巻感想

 第46巻で描かれるのは清水戦。試合前の達海によると「まだ1回も勝ってねえ」とのこと。あーたしかにヴィクトリーやガンナーズみたいに強敵!ってインパクトはないけど、悪い流れの時によく対戦していたような気がします。

実際にこういうことってあるんですよね。なぜか勝てないというクラブ。ETUも清水も作中では今季上位につけていますが、あまり順位に関係なく起こるのが不思議で面白いところ。強豪が下位のクラブに勝てなかったり。それが苦手意識となって払拭しようとしても無意識に動きが固くなったりして余計勝てない、という負のループにおちいることも多々あります。しかし優勝するような年はそのループを断つようなことが起きるのもまた事実。ETUがそうであるのかどうか、占う一戦となるようです。

 

続きからネタバレ感想

 

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私立探偵ダーク・ジェントリー シーズン2 繋がる世界

 Netflixで私立探偵ダーク・ジェントリーのシーズン2が配信されました。なんでもありのハチャメチャドラマに見えて最後には全ての要素が繋がっていく様子が痛快なシリーズ、今回はファンタジー世界にも足を踏み入れます。

※シーズン1のネタバレ感想はこちらから→

「私立探偵ダーク・ジェントリー 終わりからもう一度」

 

続きからシーズン2のネタバレ感想

 

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私立探偵ダーク・ジェントリー 終わりからもう一度

 Netflixで配信中の海外ドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」をシーズン1最終回まで見てから振り返った感想です。癖はあるけど超面白かった!当然ながらネタバレ全開なのでまだ見てない方はご注意ください。

 あらすじはこんな感じ→

大富豪パトリック・スプリングが殺された。彼は数日前に娘リディアの捜索願を出していたところだった。事件現場のホテルの一室には食いちぎられたような遺体が散乱し、サメの噛み跡のような痕跡まで。事件の第一発見者であるベルボーイのトッドの元に私立探偵ダーク・ジェントリーと名乗る男が訪ねてくる。彼は悲劇を予見していたかのように事件前にパトリックに雇われていた。全ては繋がっているという理論に基づき調査する全体論的探偵、探偵を狙う全体論的殺し屋、事件の陰で蠢くカルト集団、事態をかき回す4人組の男たち、混迷を極めるばかりかに見えた奇妙なパーツは最後に全て繋がっていく。

 

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GOTHAM

信念と現実の板挟みになって苦悩する人の物語は好きですか?私は大好きです!という訳で、そんな人にはたまらないという話を聞き海外ドラマ「GOTHAM」を見てみた所ドはまりし、あっという間にNetflixで現在配信中のシーズン2まで駆け抜けてしまいました。

「GOTHAM(ゴッサム)」という名の通り、このドラマはバットマンの世界が舞台となっています。しかし主人公はバットマンことブルース・ウェインではなく、彼と共闘する刑事ジム・ゴードンです。新米刑事としてゴッサム市警に配属されたゴードンがブルースの両親、ウェイン夫妻の殺害事件を担当する所から物語は始まり、どのようにしてゴッサムがダークヒーローとヴィラン(悪役)の闊歩する街に変貌していったのかが描かれます。

ちなみに私は最近アメコミ関連に興味を持ち始めたばかりで、バットマンに関してもノーラン監督の3部作をTV放送時に見たくらいのおぼろげな知識しかありません。なので詳しい方が読まれたら常識だよ!とか的外れだよ!ってこと書いてるかもしれませんがご容赦下さい。

 

なぜタイトルが街の名前なのか、という理由がこのドラマの最たる特徴のひとつであり私が引きつけられた所でもあります。物語開始時点でのゴッサムは既に犯罪がはびこり、警察も司法も裏社会と繋がっている、かなり最悪な街です。しかし特殊な力を持つ怪物じみたヴィランも対抗する翼のヒーローもまだ居ません。表の顔の象徴であったウェイン夫妻が殺されたことで裏社会のバランスもまた崩れ、激しくなる争いが人の心を変え人が起こす結果が街を変えていく。街が人を作り、人が街を作るということを時間をかけられるドラマならではの強みを活かし丹念に描かれていきます。その過程で犯罪者は先鋭化して行き、マッドサイエンティストの暴走を招き怪物が生まれ始める。視聴者と地続きであったゴッサムのリアリティが、どんどんコミックや映画の世界へと移り変わっていく様子にゾクゾクさせられました。

街と人との関係は折に触れ登場人物たちの会話の中に出てきます。そしてそれが最も直接的に語られたのがシリーズを通して貫かれる「誰がウェイン夫妻殺害の真犯人なのか」という謎のピークでした。ゴッサムという街だから生まれた悲劇、今このような関係にあるのは街に形作られた人間と人間の逃れようのない運命なのだとでも言うような重苦しい世界観をドラマの山場に正面からぶち込む展開はそれだけに強く焼きつけられました。

 

 そんな翻弄される人間の先頭に立つのが主人公、ゴードンです。彼は潔癖な正義感を持つ刑事として登場しますが、第1話から街を支配するマフィアのルールに捕らわれてしまい、仲間を売ったマフィアの手下を始末することを強要されます。しかし矜持を保とうと殺すふりをして助けたことが彼をさらなる地獄へと導いていくことに。そしてこの時助けられたのがオズワルド・コブルポット、後のヴィラン「ペンギン」です。ペンギンはゴードンを友達と呼び、以降2人の間には奇妙な友好関係が築かれます。財力も腕力も持たず、頭脳だけで裏社会をのし上がっていくものの、時に調子に乗りすぎて失敗し、その度に感情の上下を露わにするペンギンは悪党ながらつい応援したくなるような魅力を持っており、ドラマの裏主人公的存在になっていきます。

 2人の間に引かれていた正義と悪党の線引きはこの出会いをきっかけにあいまいになります。正義だけでは人を救えない現実を前にゴードンは手を汚すことも覚悟しペンギンからも情報を得るようになりますが、その結果重ねて人知れず罪を犯すことになります。他の事件や人の影響でもゴードンは自身の闇を深めていくことになりますが、最初のきっかけであることや、相手が自分を窮地に追い込む可能性をお互い知りながら助け合うことなど、ペンギンとは特に複雑な因縁があり、この関係はシリーズを通して私の好きな見所のひとつです。

私がなぜこの関係に引きつけられるかというと、2人ともが(今の所)特殊な力を持たない、正気の人間であるからなのだと思います。ゴードンの正義は擦り切れていくし暴走したりする。 けれども正しいことをしたい、誰かを助けたいと思う気持ちはあって、その間を苦悩し揺れ動く様子は人間性の奥底まで掘り返すようです。一方ペンギンも悪党ですが先に書いたように人間的な魅力にあふれた人物です。物語が進むにつれ精神を病んだような悪党も出てきますが、彼はコンプレックスや野心に自覚的で、あくまで街の破壊ではなく支配を望みます。また歪んだ形ではあるけれども彼は家族に愛され愛することができる人間であるとも描かれています。心を摩耗させるような争いの中もがく2人が人間として踏み止まるのか、相手を、あるいはお互いを崖から突き落とすような羽目になるのか、相手に対して影響が大きい同士だけにどう転ぶのか目が離せません。

 

 争いが激化していく中、ゴードン以外の登場人物も境界線に立たされることになっていきます。このドラマは全体的に重苦しい雰囲気ですが、ただ辛いだけ、何かが失われていくだけではここまでのめり込めなかったと思います。何もなければこの人達は幸せに暮らせるんだろうなと思える描写がしっかりあるだけに、悪にさらされて、あるいは自分の中の衝動を暴かれて転落していく落差が衝撃となります。ゴッサムという街でなければ起こらなかったという悲劇性を感じさせると共に、しかしその中でも新たに築かれ継続していく絆も確かにあって、視聴者に希望を失わせない塩梅が見事です。

両親の事件を調査する中で何度も辛い思いをするブルースに執事アルフレッドがかける「ご夫妻の遺産はウェイン産業などではなく、今私の目の前にいるあなたです」という言葉は本当に温かいし、お坊ちゃんのブルースとストリートチルドレンのキャットの友情とほのかな恋心の芽生えにはニヤニヤします。2人ともかわいいんだ!甘いだけじゃないけど。ゴードンだって共に親を目の前で亡くした者同士ブルースの力になってやりたいという思いが誠実な人間であろうとする動機になっている所があるし、相棒のブロック刑事がいつだって信頼してくれることがどれだけ支えになっているか、見ててよく分かります。最初、裏社会とも繋がりを持ち汚い手を使う怠け者のオヤジに見えたブロック刑事が、修羅場をくぐり抜けた末にバランスの取れた人間になったのだと分かる頃にはゴードンだけではなく視聴者の支えにもなっているんです。本当に彼が居てくれてよかった。死なないでね!マジで死なないでね!

 

 後にバットマンの作品世界になっていくことが明らかな以上、登場人物やヴィランたちの行く末はある程度決まっています。だけど何がきっかけで何を経てそうなったのか、どこでとどまり、あるいは超えてしまいそうなっていくのかを視聴者に追わせたくなる重苦しいながらも骨太のドラマです。風の噂では未見のシーズン3もどんどん辛い方向に進むようで今後本当にバットマンの作品世界に辿りつくのかドキドキしてる所もありますが、そこも含めて続きを楽しみにしています。

 Netflix以外にも配信しているサービスもあるようなので興味がある方はご覧になってください。地上波とか気軽に触れられる媒体で放送してないから知られてないだけで、私みたいに見てみたらドツボにはまる人は多い作品だと思います。

 

 

 

GIANT KILLING 単行本第44巻感想

単行本キャンペーンのETUピンバッジ届きました(バックは昔購入したレプリカユニ)

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ここまで正攻法搦め手、様々な方法で選手を導いてきた達海がこの大一番のハーフタイムに何を根拠に選手を鼓舞するのか?

答えは意外なものでした。

 

続きからネタバレ感想

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志独歩

アニメーション監督・黒柳トシマサ氏による雑誌「図書」5月号掲載の「志独歩」を

遅ればせながら読みました。

舟を編む」主人公馬締の、ひとつのことを続けていく姿への共感、

そんな志を大切に思い、できうる限り正しく汲み取り伝えたいという

監督の作品作りの姿勢とその原動力について書かれていました。

 

私は積極的にクリエイターのインタビューを読む方ではないので

ひょっとしたら他の方もそうなのかもしれませんが、

黒柳監督の文章はとても読みやすく明確で、どんな考えがどう作品に反映されているのか

よく分かります。

明文化できるほど常に深く考えていることが分かる文章は

作品に込められたものを読み解くヒントにもなり、

またそれほど力を注いで来られたと知ってファンとして嬉しく思えるので

黒柳監督のお話を読むのは好きです。

 

監督はその仕事に関わる人ならではの世界の見方、ものの見方があり、

そこにその仕事を続ける「持続するエネルギーの根源」があると考えてらっしゃいます。

だからできるだけその世界を正しく伝えたいと思い、

簡単に分かった気になってはいけないと突き詰めて突き詰めて考える。

そこでしか得られない感情を安易に別のものに置き換えてはならないという姿勢は

過去の監督作品「少年ハリウッド」の第5話でも見られました。

本編中の映像は舞台上のみに限られ、役者の心情や裏方の様子は一切描かれません。

「作り手の解釈の拒絶」を行ったとBDのブックレットに書かれていました。

それほどまでにそぎ落とし、まだ足りないと監督が追い求める理由は

その世界、その視点を伝えることで受け取った側の世界の見方を変えたいという狙いがあるから。

監督自身が中学生の時受け手として体験したことを、作り手として発信したいという思いからでした。

そのためには作品の芯を外さずに捉え、伝えなくてはならない。

少年ハリウッド」を通し、まさに世界の見方を変えられた経験をした私としては

身にしみた箇所でした。

監督の狙い通りになったなあという、ちょっと悔しいような気持ちと

わずかながらでもきちんと受け止められたのだという気持ちと。

 

監督自身としてはどこに出かけても何を見ても作品作りに結びつくような見方をしてしまう

と書かれていました。

食事では食べているものよりも箸の持ちかた、コップの水の飲み方が気になると。

舟を編む」は辞書編集という地味な題材の中で生活感や仕草の細やかさが光る作品でした。

その人の性格や人生が表れたような姿勢や仕草、

ファッションへの興味の度合いが分かる服や持ち物、

血縁を感じさせる食べ方。

背景、美術、動き、演技、多くのものが彼ら彼女らの身近で手に取るような生活を感じさせてくれて、

そんな人たちが信念を持って長い時間を掛けてひとつことを成し遂げる様子は

私たちの日々も輝いて見えるような力をもらえました。

もちろんアニメーションは多くの人によって作られるものですが、

私が感じたものは監督自身の世界の見方の上に成り立つ「舟を編む」の世界だったのだと

あらためて気付かされるような気持ちでした。

 

監督の原動力となった世界の見方を変えてしまうような作品とは

受け手がちゃんと受け取ってこそなりえるものです。

文章の終わりには作品に限らず多くのものがあふれる今において受け手として

見直すべきことにも触れられています。

以前に比べてプロ以外にも受け手としてだけでなく作り手としての発信の機会が増えた時代です。

時に周囲の声から離れ、自分とその作品のよりよい向き合い方を見つめ直し、

作り手の志と真摯な呼応ができるようになりたいと、そんな風に思わされました。