武玉川・とくとく清水

田辺聖子さんの「武玉川・とくとく清水」(岩波新書)を読みました。

武玉川(むたまがわ、と読みます)は、ものすごくざっくり言うと

江戸時代の俳諧を集めたもので、川柳の元とも言われるものだそうです。

 

私が武玉川を知ったのは、好きな脚本家、

木皿泉さんのTV特番がきっかけでした。

「すいか」とか「野ブタ。をプロデュース」とかの脚本を書かれた方です。

番組もよかったんですが、その中で木皿さんが使われてたこの武玉川の句が

なんともいえずよかったんですよね。

 

細やかな、鋭い観点で詠まれているのに、

人の情けない所も滑稽な所も「しょうがねえなあ」というような姿勢でくるまれてる。

 

私が見てすぐに好きになったのは

 

「うそがきらひで顔がさびしい」

 

という句。割り切って嘘がつければ、もう少し楽に生きられるのになあ…

と思いつつも、そこを曲げられないで生きていく人、みたいな感じでしょうか。

 

一方で

 

「うそが溜まって我が顔に飽く」

 

という句もあります。嘘がつける人はつける人で、これまたしんどい。

 

江戸時代の風俗を知らなければ分かりにくい句もありますが、

そこは田辺聖子さんが解説をしてくださっているので

意外な解釈を見つける驚きがありつつも、分かりやすい、読みやすい本でした。

以下、自分のメモも兼ねて好きな句を抜粋してみました。

 

長くなりますので続きからどうぞ。

 

 

<生まれて死ぬまで、人生にかかわる句>

 

「みどり子の欠伸(あくび)の口の美しき」

 

「ひよつと立つ子に家中が立つ」

 

「行水をして子をかるく抱く」

 

「背くらべ手を和やかに(やわらかに)さげてゐる」

 

小さい子を描いた句はやさしい。

 

 

「雛のようでも口は剃刀(かみそり)」

 

女の子は小さいころから口が達者(笑)

 

 

「あすの芝居に目が開いてゐる」

 

寝れないくらい楽しみにしてる時が一番楽しいのかもしれない。

 

 

「鶴折って恋しい方へ投げて見る」

 

O・T・O・M・E!

 

 

「惚れたとは短い事の言いにくき」

 

L・O・V・E!

 

 

「一逃げ逃げて口を吸はせる」

 

「口吸い」はキスのこと。はじらいがあってナンボだと思うんですよ!

 

 

「なぜ来たと握り拳のうつくしき」

 

女の人の怒っている様子を美しく描いているのはめずらしいと思いました。

 

 

「互いに笑ふそもそもの文」

 

初めて書いたラブレターってか。こっちが照れるわ!

 

 

「よその女房になるを見に出る」

 

切ない。と見るか未練がましいと見るか…

 

 

「女房に持つてみればみな夢」

 

「男に持つて見ればみな夢」

 

双方の言い分(笑)

 

 

「女房の異見寝転んできく」

 

聞きゃしねえ。

 

 

「女房に惚れて家内安全」

 

「うまいこといふ女房に遣はれて(つかわれて)」

 

そうしとけばいいんですよ。

 

 

「畳んだ物の見えぬ独り身」

 

オウッフ…

 

 

「波風の相応に立つ男ぶり」

 

立つ波風もあればこそ。

 

 

「並んでとべば憎い人魂」

 

人魂でさえカップルだというのに。

 

 

「ひとまず夢のさめる三十」

 

いつまでも夢見ていたい…

 

 

「四十から鏡を見れば腹が立ち」

 

現実は厳しい。

 

 

「しやう事がないとは角のとれはじめ」

 

いい事なのか悪い事なのか…

 

 

「上方をみて死にたいに聞きあきて」

 

親が言うのを「分かった分かったよ」、と言いつつも聞いてあげてるんだろうな。

 

 

「親の闇ただ友達が友達が」

 

言い訳ばかりする子。

 

 

「親のむかしを他人から聞く」

 

思春期が過ぎて落ち着いた頃かな。

 

 

「波もしづかにご夫婦の釣り」

 

「ご夫婦」が和やかさを増してるように思います。

 

 

「人さへみると死にたがる婆々」

 

「早くお迎えが来てほしい」と言う人。いるけどそれを「死にたがる」って(笑)

 

 

「貧乏によく生きた八十」

 

田辺聖子さんも解説で開口一番「いやー、笑える句」と書いている(笑)

 

「よく生きた」と言えればもうけものですね。

 

 

<四季の情景>

 

「桜を浴びる馬の横面」

 

美しい。

 

 

「菜売りが置いてかへる蝶々」

 

「置いて帰る」というのが面白い。

 

 

「しゃぼんの玉の門を出てゆく」

 

しゃぼん玉って出てくるだけで、のどかになりますね。

 

 

「行く春に夕暮といふ罪がある」

 

ちょっとカッコつけすぎな気もするがそこがいい(笑)

 

 

朝顔の思ひ直して二ツ三ツ」

 

終わったと思った朝顔に、思い直したように花が咲いていた、という情景。

 

あるある、だけどそこを拾って「思い直して」と表現してしまうのがすごい。

 

 

「硝子(びいどろ)に金魚の命すき通り」

 

光のゆらめきが見えるよう。

 

 

「おどりが済んで人くさい風」

 

祭りが終わった寂しさと、さっきまでの高揚感と両方感じられます。

 

 

<動物>

 

「猫の二階へ上がる晴天」

 

猫はいい。それだけで点数アップしてしまう。

 

 

「小夜千鳥氷の上のこぼれ物」

 

言葉も情景も美しい句。

 

 

「引き出しへひよこの入る土用干し」

 

ひよこはズルいよひよこは…

 

 

「売れぬ鸚鵡(おうむ)の口が利き過ぎ」

 

「鸚鵡も鳥に戻る草臥(くたびれ)」

 

しゃべるからこそ「かわいい」で済まされない鸚鵡のあれこれの面白さ。

 

 

「牛一つ花野の中の沖の石」

 

写真で見たくなるような情景。

 

 

「鶴の死ぬのを亀が見て居る」

 

鶴は千年、亀は万年、をこういう言い方で言っちゃう(笑)

 

 

<その他>

 

「新しすぎて凄い売家」

 

額縁の裏にお札が…。体言止めで迫力増してます。

 

 

「腹の立つ日は引き出しが開かぬなり」

 

それで余計に腹立つみたいな。

 

 

「世をすてた人もすべれば恥ずかしく」

 

一人で歩いている時にコケた時の恥ずかしさは皆同じ。

 

 

「女の誉める女少なし」

 

うん…(笑)

 

 

「二度まではたてかけて見る銅盥(かなだらい)」

 

出した物を元に戻すクセさえつけば散らからないのは分かっているんだ。

 

 

「取り付きやすい顔へ相談」

 

観光地でやたらシャッター頼まれる人もいるな。

 

 

「異見の側を通るぬき足」

 

それではそっと出ていきます。