さわやかサバイバー

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「大人になっても忘れない」その訳は ボンバーマンジェッターズBDBOX発売によせて

 2015年8月20日ツイッターの「ボンバーマンジェッターズBDBOX」公式アカウントによりボンバーマンジェッターズのBDBOXが来たる2016年2月2日に発売されることが発表されました。かつてDVDBOXが発売されていたものの廃盤となって久しく、放送より実に13年の時を経て再びファンの元へ映像が届く機会が訪れたのです。

 

よろこびの声の中で印象的だったのは、子供時代にTV放送を見ていて成長してDVDが購入できるようになった時には既に廃盤になっていた人々と、アニメや漫画を作られているクリエーターの人々からのものでした。「子供時代に好きだった思い出の作品」という枠に収まらず、大人になっても手元に置いて見返したいと思わせる魅力と深さがあり、「作品を作る側」の人にとっても色褪せず尊敬のまなざしを向けられる作品なのだと感じさせられました。

なぜそこまで心に残り続けるのか。「『大人になっても忘れない』その訳は」とタイトルに付けながら放送当時すでにいい大人だった私の(ごめん)思う所を軸に書かせてもらおうと思います。

作品の核に触れることとなりますので、知りたくないという方はご注意ください。

 

 

ボンバーマンジェッターズ」はゲーム「ボンバーマン」のキャラクターを基にアニメオリジナルのお話が展開される作品です。「宇宙に一つしかないもの」を盗みまくる「ヒゲヒゲ団」の企みを阻止するために結成された「ジェッターズ」に優秀な兄の後を追うようにして入った見習いボンバーマンであるシロボンの成長物語となっています。

ヒゲヒゲ団との攻防は基本ゆるいドタバタギャグが多く、この明るくかわいく温かな空気は最後まで継続されますが、行方不明になった兄マイティの存在が鍵となることは序盤から要所要所で示され、クローズアップされる第2クールと第4クールの終盤はかなりシリアスな展開になります。

マイティの存在と想いを巡り登場人物の心情が明らかになっていき、関わっていく人々の言葉や行いから心の糧を得てシロボンは成長していきます。クライマックスに向かう流れの中であからさまに怪しかった所はもちろん、その回こっきりだと思っていたギャグ回の登場人物やエピソードまでもが絡み合い、シロボンや登場人物を押し上げていく流れから受ける衝撃といったら鳥肌ものです。

全52話という長い期間、笑ったり心配したり悲しんだり怒ったり呆れたり、ここまで見て来た全てがシロボンの力になっている、自分たちはそれを知っている、見守るという形で共に過ごしてきたことによる一体感や共感がより忘れ難い作品となっている一因になっていると思います。

 

 

当初、私はすでにいい大人だったのもあってアンテナに引っかからなかったんです。それまでボンバーマンに熱中した経験もないし、子供向けみたいだから、この歳でわざわざ見なくてもいいかな、程度でした。

しばらくすると良い評判があちこちから聞こえてきました。絵はかわいいし、嫌いな感じじゃないし、ということでタイミングが合えば見てみるということを何度か繰り返していましたが、ゼロという登場人物が心情を吐露するあたりでガツンと心を掴まれました。

決して難しい言葉を使っている訳ではないし、むやみやたらに重苦しい雰囲気にしている訳でもない。それでも「死に場所を探している」と言われるような人物を世界観を壊すことなく存在させている。それまで見て来た回から、過剰に刺激的な要素を加えたりイメージや雰囲気ををぶち壊して視聴者の関心を煽るようなことはしない、バランス感覚に優れた、正攻法で作られている作品だということは感じていました。(第14話?あれは…あれは番外編のようなものだから…)ゼロという人物に惹かれたのもありますが、この作品が今までの姿勢を貫くならこんな複雑な人物や周りの人々の気持ちをどう決着付けるのだろうと気になったのもあって本格的にのめり込んで行きました。

 

結果、最終話でも信頼が裏切られることはありませんでした。死んだ人は帰って来ず、死んだ人の気持ちを全て理解することは叶わず、後悔が消えてなくなるという魔法のようなことは起こらない、けれど、誰かが誰かを大切に思い、語りかけた言葉やしてくれたことは残された人の背中を押してくれる。死んだり失敗することはそこで全てが終わり、断ち切られるということではない。悲しんでも苦しんでも君はいつか歩みを進めることができる、だから「大丈夫だよ」と、逃れられない事実とそれを受け止め越えていくための道、その先の希望をあの世界でそれまで積み上げて来た全てで真正面からきちんと伝えてくれました。

 

アニメの舞台はいわゆるファンタジー世界なのでタクシーで気軽に宇宙に行ったりするしそもそもボンバーマンのボムがどういう理屈で発生するか謎だし現実の物理法則などとはかけ離れています。でも死んだ人が決して帰って来ないこと、それが悲しくて辛いことは私たちの世界でも「本当」で、この作品はそこをごまかしたりファンタジーにはせず描ききってくれました。

前を向けるまでの過程でシロボンも、仲間のシャウトもそれぞれの大切な人の死を乗り越えられず苦しみ、混乱し、それでも前を向かなければという思いの中でもがきます。この二人には特に印象的な叫びのシーンがあるのですが、そこの台詞は自分の想いと相手へ伝えたいことが一緒になって爆発したようで筋が通ってないように思える所もあります。それでも痛いほど伝わるんです。その心情は「本当」で、「本当」を伝えようと力を尽くして描いてあるから。

「子供向けだから」と勝手に相手の理解力に見切りをつけて作品を作るのではなく、伝えたいことを力を尽くして描けば言葉で理解できなくても一番伝えたい核のところは受け取ってもらえると視聴者を尊重し、描ききってくれたことが当時子供だった人の心にも響き、そして成長してもっと多くのことが理解できるようになった時にも再び作品に触れたいと思わせてくれているのではないでしょうか。

また、その姿勢で作品を作り上げた結果、実際に多くの人に伝わり心に残ったということはクリエーター側の人にも力になったのではないかと想像します。

 

 

この作品は大人がとても格好いい作品でもあります。

「人生何が一番大変かって、そりゃあ同じことを続けていくことじゃよ。」

「誰が悪い訳でもない、じゃが誰にも責任がない訳でもない。」

今でも折に触れ思い出す私の支えとなっている言葉がたくさん詰まっています。

そんな迷える若者を支え、後押ししてきた格好いい大人も後悔を抱え続け、誤解を解くきっかけを掴み損ね、道を間違えて傷ついて来たと後半で分かってきます。それでも誰かのために言葉をかけて行動を起こしていたのだと知ると、それまでの台詞がさらに輝いて見えてきます。

今自分はあんな風に格好いい大人になれているだろうか。なれるだろうか。

あの時既に大人だった人も、あの時子供で今大人になった人も、あの時感じた、そして今あらためて感じる「大人になっても忘れない」ことを確認してみるためにも、より多くの人の元へBDBOXが届くといいなと思います。

そしてできればこれから大人になる人の元へも。

 

ボンバーマンジェッターズBDBOX発売決定、おめでとうございます。

おかえり、兄ちゃん。