映画「クロニクル」「エージェント・ウルトラ」やドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」のマックス・ランディス氏がストーリーを手掛けた新たなスーパーマンのコミック「スーパーマン:アメリカン・エイリアン」を読みました。
傑作でした…ヒーローになるべくしてなっていくのではなく、エイリアンだが田舎の心優しい青年でもある人物が、成長し様々な人と出会う中で自分を受け入れ肯定していく道筋でヒーローになっていく物語。彼の飛ぶ青空が目の前に広がっていくような読後感。
レックス・ルーサーに言い負かされヒーローとしてあるべき姿に悩む若きクラークに、彼が行っていた「できるから人助けをする」という純朴な行動が人々の希望になるとロイスが答える場面が一番好きです。
超人的な力を持っていても確固たる意志で世を渡ってきた大人に対抗できないくらい未熟。だけど大切に育てられ培われたおもいやりがヒーローとしての萌芽となり、人としての成長がヒーローとしての成長につながっていく流れが温かい。
マックス・ランディス氏の作品はぶっとんだ展開の一方「ホーム」となる人や場所を求める想いをすべりこませてくるのが印象的で、エージェント・ウルトラにもダーク・ジェントリーにも「持ってないから求める」という切なさが常にありました。
クラーク・ケントは生まれ故郷というホームを失っていると同時に人間として愛され育ったホームを持っています。少年期までを過ごすカンザスはエイリアンである彼を受け入れまっすぐ成長させてくれた理想の故郷で、マックス氏がこんなに温かいホームを描けることも驚きでした。
そして手の届かない生まれ故郷への想いはやはり切なく、どう向き合っていくかが成長と「飛ぶこと」にリンクしているのが鮮やか。
力が目覚め、自分が他の人と違うことを知ったときはコントロールが効かず、父と母のおかげで普通でなくてもいいと思えた時に飛行は喜びとなる。友人に生まれ故郷への捨てられない思いを指摘された際には衝動的に宇宙まで飛び出して大変な目に会うものの初めて情報を知り繋がりを得る。
手の届かない天上の生まれ故郷と人間として生きる地上、アイデンティティが揺らぐたびに二つの場所を行き来するクラーク。自分の故郷をカンザスだと言えた時に天と地の間は彼が自在に飛ぶ領域となり、そこでの活躍で世界に知られるヒーローとなっていく。
エイリアンとして、人間として両方のアイデンティティを持つ者は地球でただ一人。そのスペシャルな境遇を受け入れた結果がヒーロー。故郷、能力、特性、あまりにもよく知られたスーパーマンの要素を新たな成長物語として見事に落とし込んでありました。
(ただ一人って書いちゃったけどDCはおろかアメコミ全般についてまだまだ不勉強なので違ってたらすみません)
あと、友達とこっそりビール飲んで顔見知りの保安官にへたくそなごまかし方したり、特ダネ仕入れて踊ったり、眼鏡外すとスーパーマンにそっくりだって言われるんだよね~と調子乗ったり、あ、普通だ、普通にいいヤツだと身近に思えるポイントたくさんあったのよかった。
ふだんアメコミ読まないんですが、設定や評判聞いて気になって買って大正解でした。これ一冊できれいに区切りはついてるし、食わず嫌いしてた人にももってこいだと思います。スーパーマン大好きになるよ。