さわやかサバイバー

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LES MISERABLES(漫画版) 第1・2巻感想

世界的に名高い物語を原作に、新井隆広先生が

表情、心理状態を表す描写、光から闇まで描き分ける

抜群に上手い漫画力で持って世に送り出す

新しい「レ・ミゼラブル」(小学館)の第2巻が出ました。

 

何番煎じだか分からないけど言ってみたい、

「マドレーヌさん…いったい何バルジャンなんだ…」

 

ちなみに私、以前書かれていた「AR∀GO」の頃から新井先生のファンで、

新連載を心待ちにしていましたが、予想以上のビッグネーム原作でたまげました。

 

まー、すごいですよ。

絵はそりゃもう上手いし、原作はそりゃもう名作だし、

まずはただただその重厚な世界に圧倒されて、

次は表情をじっくり読んでそこに込められた思いにハッとさせられ、

さらに比喩に使われている物などの細かい所を読み込んで唸って、と

何度も何度も読ませられます。

 

とは言っても、先程読んだ第2巻の展開が過酷で、

ちょっと気合い入れないと読み返し辛い…

 

第1巻は貧しさから投獄され、19年もの獄中生活で

抜け出せないほどの闇の底に沈んでしまった主人公ジャン・バルジャン

まさに「生まれかわる」ほどの人生の転機をむかえるまでの

ダイナミックな物語で胸にズシンとくる読み応えなのですが、

第2巻は自分の愚かさや弱さから自分や人を追いつめてしまう人々の物語で、

身近な感情でもあるだけに、これはまた別の方から胸を締め付けられるのです。

最初は手入れをされて綺麗な花を咲かせていたバラの鉢植えの移り変わりとか、つら…

 

私は最近作られた映画だけは見ていて、原作は未見なのですが、

それでも大作である原作の料理の仕方がすごいなあ、練られているなあと感じます。

 

並はずれた怪力から囚人時代主人公は「起重機のジャン」と呼ばれ、

これが物語の中でも重要な要素になっているのですが、

そう呼ばれる理由となった「市庁舎の柱が倒れ、ジャン・バルジャンが一人で支えた」

というエピソードの場面、

その押しつぶされそうな重さが「彼を底辺に落とした社会、ひいては全世界の非情さ」と重なり、

潰されそうになりながらも必死で抵抗する「彼の屈強さ、怒りの強さ」が描写され、

その表情から長い獄中生活で「獣のようになってしまった彼の精神」も表され、

それを「今後物語の鍵となっていく男が見つめている」…

とまあ、「どれだけ詰め込んでるの!」ってくらいの要素が

一つの象徴となる出来事を軸に無理なく配置されているのです。

 

深読みかもしれませんが、第2巻で再び「起重機のジャン」たる場面が出た時、

彼を見下ろす男の姿が「巨大な三角塔」のように描かれているのも

第1巻の場面と重ねられてるのかなあ、と。

どこまで既に原作で描かれている事かは分かりませんが、

それでも絵である事、漫画である事を十分に発揮して描かれている場面だと思いました。

 

 

映画版を見た時、新井先生言う所の「憎いあんちくしょう」が私一番グッときた人物なので

漫画版での今後の描かれ方も大変楽しみです。

目つきが素晴らしいんだよね…

酷薄、といえばこれ以上ないくらい酷薄な目なんですが、

それだけではないものが読み取れる描かれ方で、いいんですよ。

 

まだ読むのが辛いような状況ですが、光が差す展開を待ちたいと思います。