さわやかサバイバー

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Prey ネタバレ感想

2017年にPS4Xbox One、 PCで発売されたゲーム「Prey」をクリアしました。

※以下エンディングから語りますドネタバレです

※あと趣味的な方向の話になります

 

比較的まじめな紹介記事はこちら→

Prey 私を私たらしめるもの - さわやかサバイバー

 

 

 

 

 いやーアレックスの造形が絶妙ですよね。人類代表が太ったメガネの兄!たとえば「権威的な父」や「主人公を過剰に守ろうとする母」や「美しい恋人」であれば浸れるような物語が生まれると思うんですよ。そこを太ったメガネの兄!しかもオッサン!全然ヒロイックにしてくれない!だがそれがいい。プレイヤーの判断をフラットにしてくれていると思いました。流れ的にこうなんじゃないの?という強制力が生まれず自分の好きなように選ぶことのできる感じになっていたのでは。

きょうだいというのはルーツを同じくするけれども別の人間で、年齢差で支配被支配の関係になる可能性もあるけれど親ほど絶対的ではない存在です。モーガンと「それ」とアレックスの関係を考えると敵にも家族にもなれるきょうだいというのは実に微妙でよい配置。

 

 またアレックスが親しみと警戒心を同時に抱かせるいい性格してるんですよね。最初会った時には「アップきついわ…」と思ってたくらいなのに最後はもう大好きだよ。くそーカップ麺と酒と炭酸飲料だらけのセーフルームとか大事な家族写真とか見る前に殺すパターンやるべきだった!いつかはやるかもだけど今はできない。

音声ログ「コバルト計画」を聞くとアレックスは最初ティフォンベースのモッド開発にそれほど乗り気ではなかったんですね。火遊びと火事のリスクの話もしてたし社長だし不確かな開発に簡単にゴーサインを出すことはできなかったのでしょう。個人的な想像としては兄だからっていうのもあるんじゃないかな。下の子がいる上のきょうだいは堅実路線になりがちで、同時に自分より自由な発想ができる下の子を憧れたりうらやましく思うこともあるというイメージがあります。それもあるからか、モーガンの誘導が巧みだったからか結局は開発に乗り出しました。

タロスⅠの破壊を止めようとするのは2人で計画した成果を大切に思っていたからのように思えます。取り戻したいと思っているモーガンが開発初期のモーガンであるのも。そう思うと、きょうだいに影響されて2人で同じ場所を目指し、しかし実験台になったモーガンは行く先を見失ったようになり、かつてモーガンが言っていたような言葉を今はアレックスが記憶を失ったモーガンに告げているという構図が悲しく美しい。これが君ら2人ともきょうだい以外の人類に対して傲慢すぎんだろと思う感情と両立しちゃうのが面白いところ。

 

 一方でそんなアレックスを「彼はあの時のモーガンがオリジナルって言ってるけどそんなの君が何をしたいかによって変わるよね?」とか「アレックスが感情に訴えるのは分かってたからこっちは理論的に反論するよう作られた」とかクールに言ってのけるジャニュアリーもそれはそれでメチャメチャ好きなんです。確かにその可能性はあるんですよね。会社を危うくする懸念事項をアレックスはかなり手段を選ばず潰そうとしてるし、2人とも頭が切れるだけにお互いの先回りをしていた様子があちこちでうかがえます。相反する情報をどう判断するのか委ねられているのもPreyの好きな所で、私は利益を守ろうとする狙いもあっただろうけどモーガンを取り戻したいという思いもあったと思いたい派です。

じゃあアレックスの案に乗るのかといえばそうではなくて、タロスⅠの扱いについて私はジャニュアリーの導きにそって進めました。始末はつけないと、と思って。アレックスの考えと家族の情に理解は示すけど、行動はジャニュアリーに賛成という感じでしょうか。ジャニュアリーがまたよすぎるからいけない。右も左も分からない周り怪物だらけの中に放り出された時、いい声のクールなメカに導かれたらついていくしかないっていうか。すりこみか。ひよこちゃんか。ひよこちゃんだよAIとか大好きだもんよしょうがねえよ。

そんなもんだから自爆の手順を進めブリッジに到着した時、オフィスでは満タンだったジャニュアリーのHPが減ってたのを見たらもう感極まってしまって。危ない目に遭ってまで来てくれたのかよって。その上珍しくほめてくれたり椅子をすすめてくれてダメ押しするもんだから、もう理屈とかいいや、そうプログラムされてるんだとしてもこのロマンに殉ずるわ…って共に果てました。

(この周回はアレックスを助けたもののセーフルームの扉を閉めないと目標クリアにならないの知らなくてブリッジに到着した時ジャニュアリーと2人きりでした。その後アレックスとジャニュアリーが両方立ち会うバージョンを知ったので、意図せず心情を反映したようなシチュエーションになってたんだなと。そういう偶然も込みで面白い。)

 

 1週目だから素直に進めようとしたのもあるんですが、そう行動しているとそれなりの主人公像というのがだんだん固まってきます。自分が罪深い行為をしてきたなら、清算の為とはいえこれからもするなら、せめてできる限り人を守ろうと行動した主人公でした。テレパスに頭パーンってされるがままにしてきた人もいるけど。すまん助けてたら自分死ぬから。ともあれそう進めていたので最後も「人として生きてきた自分」の決断をしました。身体を構成するものが何であれ人として生きようとするものは人、と考えたのです。この辺は最近見ていたドクター・フーの影響もあるかもしれない。

 ただその選択をしたとしても、この先は人として生きてはいけないし、モーガンとしても生きていけない。他人の記憶しか持たない存在が本人でないことを知りながら生きていかなければならない状況というのはとても想像力をかきたてられるもので、この先どう生きるのか気になるところでエンディング、というのが憎い。ベタベタな書き方すると「Yu = You」ではなくなった瞬間、主人公はプレイヤーの手を離れてしまうんですね。

もう一つの記事でも書きましたが、ねえねえこの先どう生きると思う?もう一つの選択肢を選んだ方はその後どうすると思う?なんでそう思うねえねえ?とクリアした人の印象や感想をすっごく聞きたくなるエンディングでした。余韻半端ない。

 

 色々引っくり返す仕掛けが随所に仕込まれていたゲームですが、さすがにモーガンの記憶自体は改変されてないということでいいんでしょうか?あれに手を加えられるとしたらまたアレックスお兄ちゃんの印象が変わってくるので考えるとぞわぞわします。2周目行くか…