さわやかサバイバー

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ACE COMBAT 7: SKIES UNKNOWN 希望も絶望も道あらばこそ

 先日、ACE COMBAT 7: SKIES UNKNOWNをクリアしました。それなりに長い期間リアルタイムで遊んできた私が最新作をどう感じたか書きたいと思います。

  

 私は弟の影響でACE COMBATシリーズに触れ、これまで3、04、5、ZEROと遊んできました。XはPSPでの操作に慣れずに未クリア。ファン歴のわりにはいつまでも下手で戦闘機の種類も覚えない、さほどディープではないファンです。

それでも映画のようなストーリーが自分のプレイで展開していく喜びや、それを後押しする素晴らしい映像、音楽などにほれ込み、ずっと追ってきました。

6以降はハードを持っていなかったりゲームから離れていた時期だったりで触れておらず、その間に熱も落ち着いてきて7の発表を「懐かしいな、新作出るのか」くらいに受け止めていた覚えがあります。シリーズで一番好きな04のストーリーを手掛けた片渕素直監督が新作にも関わること、印象深いラーズグリーズのテーマ曲、情報が新たになるにつれ徐々に昔のワクワクを思い出していきました。

同時にそれらが過去作で好評だった要素であることに少し引っかかりも感じました。ただ単に現行機で焼き直しをするだけにならないだろうか?そう感じたころに7が私が遊んできたシリーズの後の時代であること(3をのぞけば)、なじみ深いオーシアやエルジアが舞台となることが明らかになり、焼き直しではなく引き継いでいくのだと分かりました。ならその先になにを描くのか、不安は期待へと変わっていきました。

 

 新しく追加された雲や雷の影響も楽しませてもらいましたが、上に書いたようにやりこみプレイができるほどの腕がないファンなのでシステム面からあれこれ語ることはできません。なのでストーリー面から感じたことを中心に書きたいと思います。ラストまでのネタバレを含むのでご注意ください。

  

 7では様々なものが覆されていました。5のエンディングでやっと穏やかな時代を迎えるかと思ったオーシアは求められてもいないのに世界の盟主顔して嫌われものになっているし、04で壊して回った巨大兵器ストーンヘンジを今度は守る側になる。最初は過去の要素を出すことで長年のファンをよろこばせつつ驚かせる仕掛けなのかと思っていました。しかし次第にそれらが「プレイヤーが一旦平和をもたらしたところで戦争の火種は残るしいつまでも争いは続いていくのだ」と言っているように感じられてきます。新兵器の工場を指してこれまでの負の遺産が全て湧き出てきたようだと述べた台詞には思わず鳥肌が立ちました。それはプレイヤーが世界にもたらしたもののもう一つの側面でもあるからです。新兵器をねじ伏せたものがいたから次の新兵器が生まれてくるのですから。コゼット王女は軌道エレベーターの先が新たな混乱に繋がっているように思えると語っていました。希望の象徴さえも結局は絶望に転じてしまう。その後、その考えが変わるだけの経験を彼女はしましたが、最初に感じていたこともまた事実だと思うのです。

 このような描き方は作り手側のしがらみが投影されているようにも見えました。新しいことを生み出し、好評を得ても客はさらにその上を求めてくる。素晴らしいものを生み出せば生み出すだけ次のハードルは高くなる。

 一番楽なのは終わらせてしまうことです。一時でも平和がもたらされた絵で終われば美しい思い出が残るはずです。しかし今作には美しく散ることを拒絶する意志がありました。

 ミハイを死なせなかった結末に私はそれを見て取りました。今は亡き小国の王族、飛ぶことのみで存在感を放ち、国を亡くした者たちがそれに代わるほど心のよりどころとする人物。めちゃくちゃかっこいいです。しかしもはや居場所のない地上には興味がなく、空を自分の王国として支配したいという強大なエゴを持った人という印象も持ちました。自分のデータを吸い取った無人機が空を覆うことを後悔しているような台詞がありましたが、予想はついていたのではないでしょうか。プレイヤーはそうなることを阻止する立場になります。叶えられなかった望みとともに散ることは一種のロマンだと思うのですが、ミハイは生き延びました。飛べずなにも成せずに死んでいく残りの人生を罰ととらえるミハイと、老人が老人らしく死ねることこそが平和の意味と語るアビー。残酷で優しいこの場面がとても好きです。私はこの結末をロマンに殉ずることをせず、この先に新たな苦しみがあったとしても命を繋げていく、シリーズを続けていこうとするメッセージのような気がしたのです。

 

 敵側の英雄、といえば私は黄色の13を思い出します。最後彼は空に散り、悲しくも美しい思い出となりました。そんな04の副題は「Shattered Skies」砕かれた空、対しミハイが生き続けた7の副題は「SKIES UNKNOWN」未知の空です。砕かれ閉ざされてしまった空から開かれ拓いていく空へ。英雄の結末と副題の変化にもこの先へ、未来に向けて続けていく意思が見えた…というのはこじつけすぎかもしれませんね。

 

 7でこれまでのことが覆された先に見えるものは絶望だけではありませんでした。

 陰謀の裏にはベルカあり、のようにまで言われている今作のベルカ。シュローデル博士のマッドサイエンティスト然とした研究への邁進ぶりはむしろベルカ人がまっとうに世界のためになれることを証明しようとした結果であったことに胸を締め付けられる思いでした。国を亡くしたものが居ていいと許される場所を求める行動だったのですから。彼はこれまでのベルカを背負わされている人物です。 その一方、いつもおだやかでニコニコ笑っていて、ちっとも政治犯らしくなかったタブロイド。彼も心の中に抱えるものはあったでしょうが、ひとりの身でできる小さな人助けをして死んでいくなんてのはとても「ベルカ人らしくない」行動です。しかし彼の行動が限定的ながらも国境のない場所を作り出す礎になり、同胞や国を亡くした姉妹はそこへたどり着くことができました。核で世界をリセットせねば国境は無くせないと思い詰めていたピクシーたちが知ったらなにを思うでしょうか。ここにもまた切実だけど身勝手なロマンに殉ずることの拒絶を見たように思います。

 あの虚しさばかりがつのる状況で見ていることしかできなかった姉妹の、特に姉イオネラの怒りは彼女を捨て鉢にさせてもおかしくなかったと思います。そうして大人になり力を付けたものたちが起こした争いを治めるべく立ち向かう構図はこれまで何度か描かれてきました。しかし彼女は怒りを今を壊すのではなく先へ進む力とし、国に縛られている人や寄り掛かりすぎている人の心を解放しました。この場面も新たな世代の台頭のように思えました。

 

 様々なものが覆される状況は混沌を生み出し、わかりやすい立場をプレイヤーにも登場人物にも与えてくれません。そこになにを見出すかはその人の心次第、というのは今作のテーマのひとつですが、最後には続けていく意思とその先に広がる未知の世界への希望を見せてくれたように思います。「ハーリングの鏡」という言葉で人々に問われることとなったハーリング元大統領の行動の真意は最後までプレイすればわかりますが、二周目で該当ミッションの名前「灯台守」ですでに示されていたことに気付くくらいの塩梅も見事でした。察しのいい人ならすぐに気付いたのかもしれませんが、私は二周目でそこまで行って初めて「ああ…!」となったので。

 

 なにかを長い間続けていくのはそれだけで大変なことです。常にファンの期待に沿い、超えていく作品を作ることは難しいことだろうと想像できます。好きだった作品が過去の遺産を食いつぶすだけになっていくのを目の当たりにする悲しい経験もしました。なので遊ぶ側として最新作には不安もありました。ところがクリアしてみれば満足どころかこの先にも期待できる作品になってくれました。それがとてもうれしい。最初衝撃を受け戸惑いもした負の連鎖の描写は戦争を扱う以上ただヒロイズムに浸れるエンタメだけで終わらせてはならないという誠実さであるとともに、枷が増えつづけていく一方だとしても新たな空を切り開く歩みは止めないという意思表示だと今は感じています。

 むろんこの先が私の望む方向になるとはかぎりません。しかし希望も絶望も先へと続く道があればこそ抱くことができるものです。だから私はACE COMBATシリーズの世界に、それを愛するファンに、可能性を与えてくれたことを称え、よろこびたいのです。

 楽しかった!次回作も心待ちにしています。