さわやかサバイバー

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灼熱カバディ 単行本第3巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。単行本第1~4巻分はpixivでの追いかけ連載時のものなので先の展開に触れている部分があります。

  

続きから第3巻ネタバレ感想

 

第17話

 ほぼ王城部長対高谷の回。あっという間に相手を全滅させた王城に渡り合える高谷の身体能力も精神もとんでもないな!

一度頂点を知っているからこそ、ここでも自分より上にいる奴を倒してまた頂点に立ちたい。宵越がトップレベルに行きながらも頂点に立てなかったことを力とするなら、そこにもう一度到達することを力にするものもいる。いろんな「負けたくない」が描かれる作品ですが、これもひとつの形です。

優勝者の精神は優勝しないと根付かないとよく言われます。高谷は普段飄々としててナメてるような態度も取るんですが、王城部長が強烈なプレーをしても逆に集中高めていったし、第5巻でも英峰の守備を面白いと言って良く理解してたし、戦い方、勝ちかたをやっぱりよく知っているんですよね。

 

ケタ違いの2人の対戦は目を引くものになっていますが、チームスポーツの面もある競技としてはどこかいびつなのだと思います。わがままと分かっていながら1対1に臨んだ六弦の時とは異なり、戦いに没頭しているように見える王城はある意味高谷に「沈められた」のかもしれません。

この作品では一貫して経験や練習量が重視されるので、2人の対戦もカバディ自体の経験の長い王城部長の方が有利となって行きます。そんな中、戦いに呑まれずに王城部長の様子に気付くのがチームいちの頭脳派であり、一番付き合いが長い井浦というのは納得。2人ほどのプレーヤーでなくても、井浦の重ねた経験もちゃんと別の力になるものなんだと描かれているのがいいです。

 

第18話

 かつてエースだったからこそ、今「初心者」の自分がどれだけ重いものを託されたか知る宵越が宿し、放っていく熱でこっちまで熱くなる回!

この回大好きなんですけど、それはここまでの展開の全てが宵越の変化に関わってると実感できるからなんですよね。畦道と組むことで叶わないと思っていた連携を成功させ、2年生との対戦で自分が知る以上の熱さでカバディに取り組む人間を知り、努力すれば変わると井浦に気付かされ、そして指針としている王城部長からエースを託される。負けた悔しさから入部し、自分だけが勝てればいいと思っていた頃の宵越では決してこんな仲間を背負ってプレーする重さは感じられなかったでしょう。

本当は心の底で望んでいた仲間と協力し合うプレー。それが叶うのだと教えてくれた皆に託されたから自分一人以上の熱が宿っていくのだと思います。それが高谷がまとう水のイメージを蒸発させるくらいの熱さとして描かれるの、もう最高にかっこいい。

部内練習で使ったフェイント、先輩が見せたチェーンを乗り越える回避、敵の高谷から盗んだ外側からの帰陣、とプレーでも「これまで」知った全てを駆使し、さらにそれを超えていこうとする。心情と行動の相乗効果で盛り上がらない訳がない。

そして攻撃を成功させた宵越が言う「勝つぞ 先輩」がこれまたうれしい。攻撃の時戦うのは自分一人。だけど自分以上の力を仲間がくれたから、自分で勝ち取った成果を仲間に返しているんですよ。成長したなー宵越ー!!

 

第19話

 頭脳派で策士、コンプレックスだって持ってる井浦の底にある純粋な「カバディが好き」という思いを見せられたらグッとくるじゃないですか…!

王城部長は体格の面では恵まれてないけど、まっすぐにカバディに向き合える人です。何よりもカバディという競技に対して自分をどれだけ高められるか集中できる精神を持ってる。でも普通は他人とどうしても比べてしまう。頭はいいけどその点で井浦は読者の大多数と同じ凡人な訳です。

「できる奴」との差を見せられてへこむ、やる気をなくす、ほとんどの人はそんなこと経験して行く中で好きなはずのことにもまっすぐには向き合えなくなる。井浦にだって自分のこと対等な選手として警戒もしなかった六弦を見返してやりたいという気持ちもあったでしょう。一流の人間との差を埋めるために必死で重ねた戦略で六弦を追い詰めたこともですが、自陣に帰ろうとする六弦のもがきを止める中で「見返してやりたい」ではなく「カバディが面白くって好きだ」という単純で純粋で前向きな原点を再確認していくのがもうなんだかうれしい。

表情がまたどれもいいんですよね。必死に食らいつく、止めることだけに集中する、手応え掴んで目を輝かす…普段糸目でニヤついてる表情が多いけど、これだけの情熱がその裏にあるってことが伝わってくる絵で。

 

今回のサブタイトル「STRUGGLE」はもがくという意味。カバディにおいて接触は攻守互いに点を握っている状態で、最後のもがきでどちらが点を手にするか決まる。凡才・井浦のこれまでのもがきが六弦を止め、井浦に対しての認識も変えるという展開はベタだけど燃えるんだよなあ!

また試合の序盤にロールキック成功させた宵越に言った「そうだ。努力すりゃ変わるんだ。」という言葉が意図せず自分に返ってきてるように見えるのもいい。これまでどれだけ自分にそう言い聞かせてきたんだろう。ひとつ報われたんだな…

 

第20話

 あれほど熱かった試合を受けて、そこで得た感情をスポーツの経験者と初心者の視点でもう一段階掘り下げる。この漫画ここまで丁寧に心情を追ってくれるんだと、作品の印象が変わった回です。

読んだ時そういう驚きがあったのですが、収録された単行本第3巻の作者コメントで勝ちたい、負けたくないという感情を大切に描きたいと書かれてて腑に落ちました。

誰に、なんのために勝ちたいのか、そのために今どういう強さを身につけたいのか。心情がしっかり描かれればどこにでもドラマは生まれるんだと気付かされます。実際この後しばらく試合無いんですが、どんどんキレが増して「普通の練習だよね!?」「走ってるだけだよね!?」と驚かされることに。

 

「怒りや葛藤は懐へ、目線は先へ。簡単な事ではない。
しかし、そうしなければ勝てない事を知っている。
スポーツはそれの繰り返し。
頂点に立つまで…苦しみ続ける『呪い』にかかったようなものだ。」

この台詞好きでね…それを一人成し遂げてきた宵越の凄さもうかがえます。

そうやって一人走ってきた宵越が初めて「誰かを勝たせたい」と思った試合で負けたことで畦道の様子に気付くっていうのがいいですよね。今までの宵越では気付けなかった視点を手に入れてる。

 ここで宵越はスポーツの経験者として畦道を再び奮起させる言葉をかける訳ですが、その内容は畦道が宵越をカバディの道へ導いたことを思い出させるものというのが面白い。お互いがお互いを引っぱり上げて高め合っていく、青春だなぁ!

また宵越が畦道を対等な選手として扱っているのがすごくいい。トッププレイヤーだっただけにプライドは高いし初見で相手を舐めたりするけど、反面、すごいと思ったらすぐに相手を認める素直さがあるんですよね。

その時相手の経験のあるなしは関係なく、同じ感情を持つ対等な相手として描かれる。灼熱カバディはそういうスポーツの理想と積み重ねた経験に敵うものはものはなかなかないという厳しさのバランスがいいと思います。

気持ちがあれば強くなれるなんて言わない、けれども経験が重視されることで誰でも積み重ねれば強くなれる可能性があるし、なによりその原動力になるのは気持ちなんだ、と厳しさが諦観ではなく燃えあがらせる方向へ向いているのが作品の描きたいものと世界観がバチッと合致してて上手いと思うんですよ。

 

試合後にバンダナ取った木崎わりと好き。六弦は畏れつつ慕われる感じで高谷はあの通りだけど、栄ちゃんもそれなりに人気があるし木崎と室谷にだってコアなファンがいると見てる。勝手に。

 

第21話

 新キャラ3人の特徴をこの1回で読者に掴ませて親しみさえおぼえさせる、派手ではないけど武蔵野先生のキャラクター描写の巧みさが光る回。

裏サンデーで掲載された時、初登場なのにコメント欄で関のメガネはずすシーンがもう大人気でしたもんね。それぞれ個性的ではあるけど奇抜な髪型とか無理な語尾とかではないのに性格や関係性がスーッと入ってきて、これ地味にすごいのではと驚かされました(リーゼントは奇抜なのでは)

この辺りは作品との相性もあるからみんなに当てはまるとは言えませんが、派手な人いっぱい出てくるのに全然覚えられないって作品もありません?私は愉快だけど不器用そうなこの3人が仲いいの見て、初登場なのに「良かったなあ」と思えるレベルで馴染みました。

新入部員たちはどうしても戦力的に二軍的立場で、これまで出てきたキャラクターより描写も控えめです。普通そういう条件は印象を薄くしてしまうんですが、彼らとの関わり方を見直すことで宵越の新たな成長へ繋げちゃうんだからなあ。

そして3人の中で伴くんが昔から宵越に憧れてたってことで、宵越にも絡めやすくなるし、過去との対比、カバディに出会ってからの変化を新展開に入る回であらためて見せてくれるのも気配り上手だなと思います。

初心者なのにもう誰かに憧れられてるっていう宵越の立場もなかなか見ない感じで面白いですよね。灼カバは経験、積み重ねを重視する漫画ですが、伴くんがいることで宵越の過去に本人以外からのアプローチができるし、彼を通すことで読者もまだ見ぬ宵越の可能性に気付かされる。

一人一人の描き方もさることながら、こういう繋げ方が自然でそれがストーリーを無理なく進めていくところ、たまんなく好きなんですよ。キャラクターがあっての展開で、展開のためのキャラクターになってないんだなあ。

 

第22話

 負けを経験したことでひとつ上の段階へ進んだ畦道。彼が気遣う必要のある初心者から抜け出したことが伝わるから部長の「全然ダメだな」という厳しい言葉がうれしい。

初めての試合で実力を出せずに落ち込んだ畦道を奮起させたのが宵越で、その経験から仲間が自分に力をくれると実感した畦道が宵越とは違う方向で成長し、それがまた宵越に自分の足りない所を気付かせる…っていう互いが互いを成長させていく流れね!もう大好き!

さらに言えばこれは第1話で宵越が畦道との試合で情熱を取り戻して、試合では負けてっていうところから始まってるんですよね。そしてこれからの宵越の変化には、前回初登場した新入部員3人との宵越と畦道の関わり方の違いが絡んでくるのでホント、構成とか関係性の巧みさすごくないですか?

 

あと今回の見逃せないポイントは鼻血出た宵越にごく自然にティッシュ差し出してる伴くんですね。宵越もあんなに怖い顔怖い顔言ってて受け入れてんじゃねえか。ひざまずいて待機って伴くんどんだけ。

 

第23話

 どの回も好きなんですが、ここからの第3巻終盤の流れ私大好きで!ほぼ初心者集団の能京カバディ部ですが、それでも1年生より積み重ねがある2年生。水澄が王城に対して感じている恩と負い目とは。

 普段明るくてノリのいい水澄が初試合で抱いた忸怩たる思い、それによって焚きつけられた熱意や王城部長への尊敬の念など隠れていた面が描かれて水澄がもっと好きになったんですよね。

以前出てきた「2年生は冬の大会で負けを知っている」という話が水澄視点から描かれます。圧倒的な王城部長の実力があっても勝てなかった初めての大会。戦力が足りないと誘った伊達とぶつかりながらも良い相棒となっていった2人がその時からどれだけ成長したのかを見直すことに。正反対の2人が相棒になっていく様子っていうのはそれだけでも熱いですが、そこからさらに成長する為に離れることを決めるっていうのがね!連携も時が経てば仲間への依存となってしまうこともある。前に進むために一旦忘れることを選択できるのは既に信頼関係ができてるからこそ。

協力し合おうとしたきっかけにも、今回離れようと決めたきっかけにもなっていることで王城部長のカリスマ性も感じられるエピソードです。ただひたすらに王城部長相手をする今の練習方法が記憶を刺激し決断に繋がるというシチュエーションと心情のリンクも見事。

そしてこの2年生の「自分一人が強くても駄目、仲間に頼るだけでも駄目」という気付きと成長を1年生が別方向で同時進行していくのがすごいんだよなあ。しかもこれ試合でもない普通の練習の一環なんですよ。

人並み外れた王城部長の実力と存在感を印象付け、それだけでは勝てない現実を示した上で、ではこの先勝つためにはどうするかという目的や達成できるかという道筋、その裏の動機があれば、ただの練習もドラマになりうるんだと驚かされました。

 

第24話

 同級生とボウリングに飯(めめメッシ)やったね宵越!青春だ!と、日常回の楽しさもありつつ、縁遠かったそれらに触れることで選手としても人間的にも視野を広げていく宵越の成長がうれしい回。

無理矢理勧誘された部活だろうが勝つためには全力で学ぶ姿勢を見せてきた宵越。サッカーでトップクラスにまでなっただけあって自分が強くなる方法はよく知ってました。そんな人間はどうやって成長させる?という所に自分より弱い選手との連携を持ってくるのが面白い。

孤立していた人間が仲間と繋がる喜びを知るっていう王道の良さも確かにあるんですが、宵越はスポーツの面では身体的にも精神的にも優れているので初心者とは違うレベルの話になるのが独特で、そこがこの作品ならではの特徴になっていると思います。

初心者も仲間だ!共に成長しよう!となるきっかけが感情ではないのが宵越らしいところで、畦道が初心者メンバーをフォローした結果が実際に点数という形で現れていたからチームの底上げになると実感し、自分にその視点が欠けていたことに気付くんです。それまでも決して馬鹿にしていた訳ではないけど、自分の進む道には必要ないかのように感じていたメンバーを共に強くなる仲間として、ひとくくりの「初心者」ではなくそれぞれの特徴を持った選手として見方が変わっていく瞬間が光が差すように描かれてるの眩しいじゃねえの…

以前書いたことがあるんですが、過去サッカーの試合で連携を取ろうともしてもらえなかった宵越が一人雨の中呆然としていた場面と、今回自分から雨粒に手を伸ばしている場面とでは雨粒が彼の「仲間」に対する意識が変わった表現のように思えました。

同じチームスポーツでありながら、本当の意味の仲間がいなかった当時と違い、意識を変えるきっかけをくれ、受け入れてくれる仲間がいることが読者としても嬉しくなりました。

 

第25話

 あなたの力になりたいから、あなたを倒して力を示します、って人間ドラマと攻守がターン制ではっきり分かれる競技の特性の融合が見事なんですよね…!大好きな回!

灼熱カバディは驚くぐらい勝つシーンがない漫画なんですよ。だけど引き付けられるのは必ずそこで何かを得ているから。単純な身体能力では自信があった水澄が試合では歯が立たず、王城に助けてもらってばかりだった悔しさ情けなさを糧に選手として成長しました。その恩を少しでも返したいと、王城を倒して成長の証を見せようとしたけど今回もまたギリギリで倒しきれない。だけど自分では気付けなかった歩みを相棒がしっかりと見てくれてました。

それは水澄がチームを勝たせたいと思い自ら動いて伊達を誘って、同じ悔しい経験をして来たから得られたものです。これもまた成長の証。そしてここでも「なぜその人が気付けたか」っていうところにちゃんと理由があるのがすごく好き。

 

あとこの回は特に好きな絵が多い回で!「よろしくお願いします!」の水澄は闘志をみなぎらせつつ美しいし畦道もキリッとしてるし、「ズド」からの王城部長の笑顔迫力あるしとにかく怖いし、フラッシュバックを挟みながらの決めゴマはそりゃもう盛り上がるし、さらにそこから体格のいい水澄が意地を見せようと振るう力の強さとそれを上回る王城の粘りが絵でビシバシ伝わってきます。

この回を踏まえての第3巻裏表紙の絵がまたグッと来るから気になる人は単行本買って確かめてね!