さわやかサバイバー

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灼熱カバディ 単行本第2巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。単行本第1~4巻分はpixivでの追いかけ連載時のものなので先の展開に触れている部分があります。

  

続きから第2巻ネタバレ感想

 

第8話

 チュートリアルが一通り終わって、じゃあ何を目指す?という回。

この回「おっ」と思ったのが宵越と畦道の関係。宵越は「それかませ犬のフラグでは」って先入観持った言動しちゃうとこあるんですが、同時に認めたら経験や年数に関係なく相手に敬意を払えるんですよね。スポーツの経験すらほとんどない畦道を「タメ」って言ってるのにニヤニヤ。

カバディって個人とチームスポーツ両方の面を持つそうなんですが、ド田舎出身でスポーツの経験がない畦道が仲間との連携を大切にする守備向きで、ずっとサッカーをやってきた宵越が個人で突破する攻撃向きなのが面白いなと思います。ただ割り切れる訳じゃなくって、畦道は宵越の仲間に頼るだけでなく自分で学んでいく姿勢に影響を受け、宵越は畦道から仲間に目を向ける必要性を知っていく。このお互いを高めていく関係、私はすごく好きです。

 

登場人物も熱い試合展開も全部好きだけど、灼カバで一番萌えてるの、構成とか人物配置とかかもしれません。専門的なことは分からないけど新しい話読むたび「ああ、あの時のあれが!上手いー!たまんねー!」って驚いてる。

 

第9話

 さすが人気の王城部長、登場回からトップギアだぜ…!こんな二面性のある人がさらに残念Tシャツキャラだなんて言えない。どんなの着てるか第4巻で見られるなんて言えない。

 

第10話

 チラ見せしてた王城部長の二面性が全開に。この鬼のような形相いいよね…

そんな激しさの一方で、王城部長はやっと戻って来られたコートに「またよろしく…お願いします。」と小さく挨拶し、久しぶりの試合を噛みしめ「やっぱり…楽しいなぁ…」と涙を流している。闘争心と同時にただただカバディという競技が好きで仕方ないという気持ちを持ち続けている人なんですね。なにかを始め上を目指す時に大事な部分を両方持っている。フィジカルが物を言う競技では不向きな細い体なのにトップクラスにまで登り詰めた理由がよく分かります。

こういう描写が積み重ねてあるから、後に出てくる「愛」の決め台詞が浮かないし納得できるんですよね。そして多くの選手が彼に引き寄せられる理由も納得できる。とてつもない情熱を持っている人を見てしまったら、その人と自分が同じ道にいるとしたら、追いかけたい、追い抜けるだろうかと刺激されるんじゃないでしょうか。

あと倒れ込みながらも「2点取ったぞ」って指でも示して喜んでるコマかわいい。それから宵越はなんだかんだ言って認めたらすぐ敬う所がいいよね。彼なりにだけどね。

 

第11話

 前回鬼の形相で攻撃してた部長が天使の微笑みで肉じゃが持ってきたぞー!

宵越がサッカー時代に見失ってしまった情熱を取り戻していく過程が灼カバの熱いところで好きなところでもあります。そして今回もうひとつの原点「日本一になりたい」という思いが部長によって呼び覚まされる。それはスポーツを始めたばかりの人間が無邪気に夢想するもので、やればやるほど遠いものだと分かってくる。全国トップレベルにまで登り詰めた宵越だからその壁の高さはなおさら身に染みているはずです。

じゃあなんで部長の「日本一」が響いたかというと、10年選手でありながら始めたばかりのような好きでしょうがないという気持ちを部長が持ち続けているからだと思うんですよね。それは前回プレー後の涙で絵として見せてあるし、今回部長自身の言葉でも語られる。月日を重ねれば擦りきれていってしまう情熱を持ち続け先を歩んで行く部長に触れて宵越の原点が刺激され、この人に追いつき追い越したいという気持ちが生まれる訳がよく分かります。

 

それにしても「仲間とかうぜー」って言ってたころの井浦慶はいつになったら見られるんですかー!

 

第12話

 井浦の胸中が明かされる回。だけど仲間に話す訳でもないし、王城部長にすら隠そうとするのがホント井浦お前…

一番の友人である王城部長に話そうとしないくらい、彼に対しても意地やコンプレックスを持ってるのでしょうが、それでも友情が続いているのは部長が情熱こそ人並み外れているけど体格が恵まれていないこと、それでも強くなれた人ってのもあるんだろうな。井浦の様子を察してかける言葉も「恵まれている者の残酷な無邪気さ」ではなくて、彼の頭脳は勝負の場で通用すると判断した上で自分と対等だと言ったから井浦も納得し奮起できたのだと思います。

それは長年側で努力する姿を見てきたから分かることだろうし、この2人の関係のバランス、微妙で上手いよねえ。

 

第13話

 いよいよ練習試合本番。解説は竹中監督(サッカー部)でお送りします!カバディ初心者ながら鋭い心理分析までやっちゃう竹中監督マジ名解説者なのでまた試合見に来てほしい。土曜は自主練だ!!

 

宵越はカバディこそ初心者だけどサッカーでトップクラスの選手だったため試合慣れしていて、その点で先輩を上回る活躍ができて不自然ではないというのが面白いです。初心者がいきなり見せ場作っても、きちんと理由があるから気持ちよく爽快感に浸れるんですよ。

宵越の出した成果をまず井浦が認めるというのがいい。かつて宵越を焚きつけ、「ハットトリック」のハッタリを見抜いていた井浦だからこそかけられる言葉なんですよね。王城部長という指針となる人が出てきても、なにもかもその人が導くわけではない。

灼カバは「展開のためにスゴイ偶然パワーが働いて都合よく都合いい人が気付く」のではなくて、性格や関係など「どうしてその人が気付けたか」に理由があり、丹念に積み重ねがされていくから好きです。

で、さりげなく言ってるけど井浦がここで「そうだ。努力すりゃ変わるんだ。」って言うの、読み返したらめちゃくちゃ重いじゃないですか…

 

あと普段2.5枚目みたいな水澄が仲間ナメられたりすると冷たい目つきになるのスゲー好きです…「ああ?」ってつっかかっていってもおかしくないタイプだと思ってたのに!第4巻で安堂に突き飛ばされた宵越受け止めた辺り見ました奥さん?

 

第14話

 偶然にもpixivの追いかけ配信も「全滅直前、畦道一人」の場面でした(※裏サンデーの当時最新話の展開と状況が重なっていました)この時と全滅の重さが全く違いますね。対戦相手や状況も異なりますが、この時は初心者の緊張しか背負ってなかったのに対し、今は全滅の利点も何もできない悔しさも知っている。だから余計全滅を選ばなかったことが輝いてきます。

この回自体はとにかく高谷のすごさを見せつけられる回でねー!悔しいけど決めゴマがまあカッコいいのなんの。「オッケー?」も憎たらしいけど好き…自分がカッコいいの分かってるの憎たらしいわー!ほんで実際カッコいいの憎たらしいわー!

 

第15話

 じりじりと追い詰められていく能京はついに2回目の全滅をむかえてしまう。重い空気に包まれる中ついにあの選手が試合に出ます!

高谷が力を見せれば宵越が流れを取り返し、さらに高谷がそれをはねのける。序盤、他競技から転向した選手同士による競い合いのような場面では初心者でも身体能力が高く、勝負事の経験を積んだ宵越が見せ場を作ることができました。しかし試合が続けばカバディの選手としての力が問われてきます。

単純にスポーツ選手としての優秀さだけでは太刀打ちできなくなって来るんですね。サッカーで鍛えたステップで仕切り直そうとした瞬間、ページをめくると追撃という宵越の知らないカバディのルールでひっくり返されてるという衝撃。ここ、見開き大ゴマで逆転の衝撃、その後一瞬時が止まったように事態に思考が追い付かない宵越の表情、続いて斜めに区切られた不安定な小さめのコマで混乱する能京の様子が描かれてて、その時の空気が手に取れるようで上手いんですよねえ。これデビュー作ですよ…

宵越や畦道が粘りを見せるものの、2回目の全滅、しかも攻撃が本職ではない六弦にとどめ刺されて、もうこれどうしたらってところでアレですからね!最初読んだ時声出して驚いた記憶があります。試合再開の隙を突く抜け目のなさ、きっちり仕留める優秀さだけではなくて、ボーナスポイントまで取ってるってことでカバディの経験の深さもしれっと見せて高谷を上回っていることを見せてるの憎い。メンバーと読者の底まで落ち込んだ空気を一瞬にして天井ぶち抜く勢いで上げちゃうんだもの、そりゃ人気出ますわ…

  

第16話

 前回ラストで衝撃を与えた王城正人という人のすごさを掘り進めていく回。並はずれた情熱こそ持っているものの、今の彼を作り上げたのは地道な努力というのがいい。

灼カバは一貫して経験や積み重ねを重視してるんですよね。転機になるような出来事を通じてモチベーションを得るドラマティックな展開も描きつつ、本当に力を付けるためにはその先の努力が必要という厳しさがある。

だから体格にも才能にも恵まれた宵越でもカバディ自体の経験が浅いためなかなか勝てないという展開にも納得できます。人によってはそこにフラストレーションが溜まるかもしれませんが、経験を積んでいくこれからに期待が持てて私は好きです。

王城部長を支えるモチベーションは「カバディへの愛」。読んでると分かるのですが、仲間が活躍すると結構子供っぽく張り合おうとするんですよね。ただ普通はそれが相手と自分の間に起こる感情なのに対し、彼はカバディと相手、カバディと自分との距離に対して張り合っているような印象です。10年選手であるにも関わらず、長年何かを続けていると生まれる鬱屈した感情が見えず、初心者のようなただカバディが好きという思いで動いているように見えるのはその辺りが理由のような気がします。根っこの所で誰にも左右されないモチベーションを持ってるというか。

視点の高さの違いで多くの人が追いかける王城正人という人物の特別感を出しつつ、地道な努力の大切さにも説得力を持たせてる。人物造型と世界観が見事に融合してるんですよね。上手いなあ。

「僕を追ってるようじゃ…まだまだ…」という台詞、努力がものをいうということ、今回描かれたこの二つが今後もう一度効いてくる場面があります。奏和戦、これまでの展開と試合中に生まれたドラマが噛み合っていくのスポーツものの理想って感じで読み応えあって好きだなー!