さわやかサバイバー

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灼熱カバディ 単行本第5巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。

  

続きから第5巻ネタバレ感想

 

第35話

 この作品の「秀でた人」のなにが優れているかって、体格や才能より強さを追い求める姿勢が一番な気がします。それが最初からできる人のすごさを見せつつ、凡人が同じ場所を目指す時、対等に、大切に描かれるのがとても好きです。

最初、先にその競技に入った気のいい同級生というポジションだけで畦道のこと選手として気に留めてなかったんですよ。そういうキャラって主人公のすごさを語る係になったり、驚き役になったりすることもあるじゃないですか。それが彼にも彼の武器があり、主人公・宵越に触発されながらも自分なりの強さを追い求めていくって描かれた時、彼も対等なんだ、この漫画はそういうところを大切にするんだって驚いたし、一段深く好きになったんですよね。

そして畦道が宵越の「強い人に学ぶ姿勢」に触発されるだけでなくて、宵越は畦道の「弱い仲間にも目を配る行動」を自分には出来てなかったことだって気付いて変わっていったりと、影響が双方向なの、いいんですよね…

 

 読み返してみたら、最初から畦道は宵越の「仲間」に対する意識変化させるきっかけになってましたね。勝負へのこだわりは共有されない、思考や能力の違う者とは連携は取れない、というサッカーの時に感じた壁を破ってきている。 それができたのは畦道が仲間を大切に思い、仲間のことをよく見ていたからなんですよね。最初から彼は彼の持ち味で影響与えてたのか。最初からちゃんと積み重ねてある…

 

  一番初めの変化のきっかけの場面って、シューズ買いに行った時の会話だと思うんですけど、あそこの回想シーンで雨の中、一人愕然としていた宵越が、ボウリングの後は自分から雨粒に手を伸ばしているの、宵越の仲間に対する意識の変化の表れにも見えます。単に回想シーンの試合状況と6月って時期が重なっただけかもしんないけど。でも感情や変化を丁寧に描いてある作品だから、読み返してあらためて下地に気付かされたりして繰り返し読んでも面白いんですよ。

 

第36話

 あのね、毎度毎度「おっ、今回は息抜きエピソードかな?」って読み始めたら、どちゃんこ熱い話になるの勘弁して?この面白眼鏡コンビめ…!!合同合宿ならではの相互作用、いいっす…

いまひとつ影の薄かったヒロが意外なキャラ立ちしてきたぞ。

前回の主人公→おともだちを あさごはんに さそえました
今回の主人公→やさいを じょうずに ちぎることが できました

…幼児かな?

主人公が毎回前面に出てなくても、試合してなくても、その競技に掛ける熱意が多くの人や角度から描かれるっていうのは作品の厚みを増してとてもいいなあと思います。

 

第37話

 反骨心で強豪校のスタメンの座を手に入れた者と少女のような外見のおよそスポーツ向きではない初心者、そうだよ、この2人には共通点があったんだ。気付けない程一見かけ離れた2人が悔しさを共感しあい、前を向く展開は熱い…!

既に作品内には提示されてたのに気付けなくて、ある視点を与えられた時に初めて「ああ、ここに共通点あった!」と気付かされる仕込みに弱いのですが、今回の灼熱カバディ、そこドンピシャでした。

なんでそこも突いてくんのお!ってくらい次々ツボな展開押さえてきて怖い。これとかも。

→過去ツイートより:『題材や舞台となってる時代が展開や登場人物のパーソナルな部分に上手く絡んでいる作品はそれだけで大好き度が上がってしまうのですが、灼熱カバディ第3巻の水澄のエピソードは、「攻撃手」の王城部長に対して水澄が「守備」という役割だからこそ見せられる成長の証になっているのでもうたまらん。』

 

若菜が「一番悔しがってたから」スタメンに選ばれたという短い描写も、ここだけなら部長の神畑よく見てるな、だけなんですが、普段冷静で理知的な神畑が激情を見せた前回を踏まえるとよりグッと来るっていうね…!彼もまた「悔しさ」を持つ人で、それが若菜、今回の人見へと繋がる流れが上手い。

もうね、掘り下げ回があるたびに「浅はかでしたぁぁぁ!!」って土下座してますわ。キャラ造形が上手いからみんなパッと個性掴めるし、親しみやすくて好感持てる人物ばっかりなので、それだけで楽しく読めるし満足しちゃうんですが、灼カバそれだけで終わらないってこれまでで学んだでしょうがー!

題材がカバディというネタにされてきたドマイナー競技なので知らない人は腰が引けても当然だと思うんです。でも誰でも持ちうる感情を大切に描かれてるので入り込みやすいし、盛り上げ方が上手くて熱いです「灼熱カバディ

 

第38話

 おお、この王城部長の決めゴマは!佐倉くんと宵越、重ねて来ますねえ。「カバディでは未完成」ってことはサッカー時代の経験を活かした技術なのかな。答え合わせが楽しみ。

 宵越がかつてのサッカー時代に失った情熱を取り戻したり、無理だと思っていた仲間との連携を達成していく様子が熱いんだけど、その時に培われた学ぶ姿勢や壁を乗り越えてきた経験は無駄じゃないって描かれてるのがいいんですよね。前回の人見ちゃん回でもそうだけど、自分にとって苦々しい経験や後悔でも、考え方次第で自分を突き動かす糧になるんだって、読む人の背中も押すようなメッセージが入っているような気がします。

 

王城のこと聞かれて「一番強い奴」って答える井浦…お前もうホントお前…!名前は素直に教えない(自分のも)かわりに、別のもんがだだもれじゃねえか…!友人に対し称賛と共にコンプレックスを抱きながら、頭脳で追い付こうともがき続ける凡人・井浦慶!そりゃ好きになるよな井浦慶!素直じゃない本人の代わりに連呼しときました!

 

第39話

 輝かしく、温かいものであるが、同時に望みが叶わなかった苦さも過去に対して持つ2人。その後悔までも糧とし、共鳴しながら競い合う先には主人公の未来の可能性さえ見えてくる。第39話、たった1回で全部描いちゃうってもう…!

しかも実際やってんのは練習試合ですらない、トレーニングメニューの一環の外周ですからね。走ってるだけっすからね。面白さっていうのは「何をしているか」ではなくて、「何を描くか」なんだなと実感します。

親にやらされたり、誰かのためであったり、きっかけが何であっても、真剣に取り組む中で生まれた情熱はもはや最初の理由を超えて人を動かし続ける。悲しみを抱えてなお、その情熱に身を投じずにはいられない佐倉くんの様々な感情がつまった横顔は泣きそうになりました。

それを宵越が言葉でなく、共に走る中で感じ取るというのがまたよかった。どのジャンルでもその題材だからこそ伝わるものや響き合うものを見せてほしいし、それがあればより魅力的に感じられます。スポーツ漫画であるこの作品で相手の粘りから読みとるというのは正しいと思いました。宵越が共感できる理由もしっかり下地があるから浮つかないんですよね。

 

年数の違いはあれど王城を追う者同士として佐倉くんと宵越は同列のライバル関係になるのかなと予想してたので、先輩として認める形になったのは意外でした。そうよなー武蔵野先生が何の意味もなく2年生設定にする訳ないわなー!王城-佐倉-宵越の相似形がこの先どんなドラマを描くか楽しみです。

 

今回は合宿編の「個人が個人に影響を与えるパート」のクライマックスであったと思うんですが、こんだけ盛り上がって、それぞれが集団として戦う合宿仕上げの練習試合もあるとか、もうもう、この先テンション、どうなっちゃうのー!?

第39話面白すぎてね、できるだけたくさんの人に読んでもらいたくてハッシュタグ付けちゃったよね…(主要ツイートにハッシュタグつけてました)ホントにこの回、後から振り返った時キーとなる回じゃないかな。

あと佐倉くんはおばあちゃんっ子の時点で5億点。

 

自分、この回で「落ちた」んだなあとわかる初読時のツイート:

『ちょっ、灼熱カバディ第39話めっちゃくっちゃ面白い…!コメントでも言われてるけど走ってるだけだぞ…!毎度毎度それまでの積み重ねを活かした上で「じゃあ今回はこういう話かな」っていうのを2段階3段階超えてくるんだよこの漫画!』

『明日まとめられたらもう少しちゃんとした感想書きますけど、うわあああって吐き出さずにはいられない熱がすごくて!あーうあー面白いーもう寝るのにー。興奮してしょうがないー』

 

第40話

宵越活躍フラグ立ってる、よし能京勝つな!
神畑の実力が明かされるのか、これ英峰勝つな!
佐倉くん覚醒の予感、うん紅葉勝つな!
ああもう、すっごいワクワクするし、どこも全部勝ってほしい!

単行本第3巻の作者コメントにあったように、誰にでもある勝ちたい、負けたくないという感情を大切にされてるから、実力や年月に関わりなくその気持ちを持つ者同士は対等と描かれてて、そこに生まれる仲間意識が爽やかで熱い。と同時に他校は初心者だらけの能京にない強さをそれぞれ持っていて、それをどう攻略するかという課題もある。対等な気持ち、対等ではない実力、何がどう相手より上回れば勝てるのか。スポーツものの基本といえば基本だけど、この作品はそこの盛り上げ方がすごく上手いです。

共感の背景には弱かった過去があり、発揮された実力にも裏打ちする積み重ねがある。その場面になった時の「確かにそうだ!ってか既に描かれてた!伏線あった!」っていう驚きと納得度が高いんですよ、ってこんな書き方で分かるかな…

様々な実力と個性を持つ個々がそうやって影響しあい、成長してきた合同合宿の仕上げとして、チームという集団で戦う訳ですよ!そりゃテンション上がりますよ!

 

強さや闘争心の表れ方も人それぞれだから、佐倉くんの「勝ちたい」はガツガツしたのではない表れ方するのかも。畦道が仲間と強くなる方法選んだみたいに。とはいえ、闘争心剥き出しになってもそれはそれでいい…

若菜が生意気言ってすみませんってすぐ素直に謝った所、反骨心ばりばりタイプなのにエリート校生っぽさがのぞいててニヤニヤしました。

神畑なー、「ガリガリになってんじゃん、大丈夫なのかよ…」が「余計な心配でした!」に見事にひっくり返されたよなー。体格の有利さを見せつけてから、それが作戦に結びついてる頭脳方面の優秀さでもトドメさすとか、かっこいいぜ…

練習試合どうなるのかめちゃくちゃ楽しみなんですけど、これ終わったら合宿も終わってしまうのがすでにさみしくて。みんなちょくちょく遊びに来いよ!全国大会関係なしに気軽に来ればいいよ!

 

第41話

 技術、不安や恐怖を感じながらも新しい技に挑戦する胆力、宵越の「積んできたもの」が発揮された回でした。他のキャラの話が良すぎて影が薄くならないか心配だったけどカッコよかったよ主人公!

謎の主人公パワーでいきなり大技が成功するとかじゃないのがいいんですよ。考えて考えて試行錯誤してきたことも、競技は違えど場数を踏んで試合中にチャレンジを成功させる力があることもすでに描かれているから納得できる。

マイナー競技だからどうしても新しい技がどう試合で有利なのかって想像しにくいじゃないですか。それを「今まで通用していたフェイントが通用しない、すぐ攻撃に対応してくる高いレベルの守備」を英峰はしているって分かりやすく描いた上で、それを越える宵越のすごさを見せるっていうのはさすがです。

それに加え、フェイントは宵越が一番最初に成功させた技術で、そこを越えていくっていうのは一段上の新しいステージに入ったんだなって実感します。殻にヒビが入っているようなイメージが描かれたことがありましたが、破っていく瞬間を目の当たりにしてるんだなって興奮しますね!

英峰がやってた守備練習、あれ他校と交流することで強豪の練習や意識の高さを知れたよ、っていう合宿のひとコマかと思ってたんです。あそこも下地だったとはなー。無駄がないわー。

宵越の技は外周レースでも描かれてたように、おそらく体重移動や切り返しを利用したものじゃないかと思います。ワンアクションで引き倒す英峰の守備もそこらへん使ってるんですよね?同じ土俵での守備と攻撃の対決って考えるとまた燃えるなー!宵越の技に対してスピードで勝負してきた若菜がどんなリアクションするのかも楽しみですね!

 

第42話

 前回見せた新技の種明かしが来るかと思ったら来ない!けど全然もったいぶってる感ない!なぜならすぐさま対処してくる相手と、させまいとする味方の攻防がメチャクチャ激しいから!

もう試合回は毎回「出し惜しみねえな!」ってビビりますね!コート上の人数が増減し、出た順に戻るカバディのルールを踏まえた頭脳戦、それを成功させるための身体的強みを活かした描写、双方出てくる出てくる。

 

その研ぎ澄まされた頭脳と身体を作り上げた源である、神畑の執念とも言える想いの強さが描かれてるからプレーにさらに迫力感じます。

カバディは高校までと割り切っていながら、届かない頂点に立つ男に対して「殺す」とまで言う。エリートらしいスマートさを持ちながら、そこからはみ出す渇望を抱え泥臭くもがく姿が、エリートという枠を越えた人間性を感じさせてくれます。

だからといって、能京を通過点扱いされちゃたまったもんじゃない、ってことで王城部長!やってやって!

 

それにしてもこれでまだ公式戦じゃないんだよな…こんな熱くて面白くていいの?アイデア尽きない?って心配になったりするんですけど、いっつも予想越えられちゃうからいっつも驚いてる。

メジャースポーツのように試合展開のテンプレがないのは強みかもしれません(9回裏ツーアウト満塁みたいな)でも同時に、浸透してないからルールも紹介しないといけない難しさがあると思います。展開の流れを切らさずにルールが自然と頭に入って来るような見せ方がホント上手い。

 

第43話

 ついに来たその瞬間。ショックが大きいですが、この衝撃が殻を破る一押しになるのではという期待も生まれる、激動の回。っかー!熱い!!

以前井浦は高谷を倒すことができたのは英峰という「群れ」の力があったからだと話していました。宵越が感じたしなやかな一体感のある守備は、積み重ねがされているからこそだと思うし、その群れを引っぱってきた神畑の執念を知れば、どこかで報われてほしいと感じていました。

しかしその成果が王城部長相手に発揮されるとは…王城部長はこれまで徹底的に頭一つ抜けた描写がされていたので、彼の攻略がこんなに早く来たのは驚きですが、同時に英峰の積み重ねた全てでなければ止められなかった事実が部長の強さを際立たせているようでもあります。

王城部長が最強レベルの「カウンター」にさらに改良を重ねていたこと、その上で英峰が彼を止めたこと、片方を下げることで片方を上げるのではない、どちらとも凄いと感じさせられる戦いの応酬。こんなの燃えるに決まってるだろがよー!

 

また今回は目覚めていく次世代の力を感じた回でもありました。届かないかと思われた瞬間、王城部長を捕えた若菜、神畑に見込まれてレギュラーになった彼は神畑と同じく「悔しさ」を内に秘めバネにしてきた人です。

共振する次世代の力が新たな一手となる、英峰サイドだけでもメチャクチャ熱い展開ですが、これ能京にも来るんじゃないかな?自分の力不足をもどかしく思う宵越の姿は一皮剥けるフラグじゃないかな?

合宿前に宵越と畦道がどれだけ伸びるかがカギになるって言われてたし、王城部長を止めた英峰を攻略する為には、王城部長を越えなければなりません。今回の衝撃は今までの殻を破る力になると思うのです。宵越はそれができる奴です。そしてそうなれば畦道も成長してほしい。

 

第44話

 実力的、精神的支柱の王城部長が倒され動揺する能京を奮起させたのは畦道!神畑に見出された若菜が突破口となれば、こちらだって王城が連れてきた畦道が風穴開ける訳ですよ!

仲間を大切にする畦道ですが、仲間に頼っているだけではダメだと今回の合宿で突き付けられました。カバディは全滅しても点数と引き換えに味方が全員復帰するルールがあるため、また仲間に頼ってしまうのか、それとも一人でも戦う力を身に付けたのかどうかという、競技の特性とキャラクターの成長を問う展開のリンクがもう見事。

灼熱カバディのすごさのひとつは、馴染みのないカバディという競技そのものを楽しそう、面白そうと感じさせてくれるところだと思います。今回は集団と個人スポーツ両方の面を持つ独自性と、それが競技中に選手に及ぼす心理面の影響が絡んで「こんな展開にもなるんだ!」って魅了される回でした。

 

全滅という楽な道を取らない畦道の姿は英峰の守備とも重なります。コートの中で孤軍奮闘、強豪の高みに近づいていく畦道に痺れるったら!だからこそ他のメンバーも王城部長が倒された衝撃を払拭できたんですよね。

畦道が他の誰より「学ぶ」姿勢の影響を受けたのはもちろん宵越でしょう。サッカーのエースだった宵越が今初めて感じている「役に立てないもどかしさ」をスポーツ初心者の畦道が先に知っていて、それさえも救おうとしているのも面白い。

このことは確実に宵越に何かもたらすだろうし、この2人が仲間としてライバルとして相互に影響与えあって成長していくのホントいいなあ…

 

神畑のしんどそうな様子に、減量の辛さを知る関が気付いているのも細かくて丁寧だ…神畑がまだフルで戦えないとしたら、王城部長を倒したのはギリギリのタイミングだったのかもしれません。だとすれば部長の凄さが際立ってきますね。スゲーな部長…これで試合の流れも変わってくるのかな?