さわやかサバイバー

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灼熱カバディ 単行本第7巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。

  

続きから第7巻ネタバレ感想

 

第55話

 水澄ーっ!伊達ーっ!ここ最近出番が少なかった能京2年生が活躍したのもうれしいけど、納得できるだけの根拠があるのが灼カバの好きな所。それ以外の理由があるから気持ちの後押しにも素直に熱くなれるんですよね。

この合宿中しばしば焦点を当てられてきた、いわばストーリーの中心近くにいた佐倉くんがとうとう覚醒し、こりゃ大活躍だなって予想された時に出番の少なかった能京2年生と井浦が彼を押さえる。意外だけど、ただ驚かせるだけの展開じゃない。

能京2年生が他校と比べてガタイがいいのは佐倉くんと出会った時に触れられてるし、守備が伸びてきてるのも1日目のキャプテン同士の会話で描かれてます。その成長の源となった「天才だろうが同じ2年生」に負けられないという思い。それらだけで守備を成功させたなら根性の大逆転的な物語になる所を、井浦の経験と頭脳が加わることで天才との差が埋められたという結果になっているのが灼カバらしいですね。根性だけではないから佐倉くんの天才性が貶められないのもいい。

選手の方のブログによれば実際の試合では攻防は一瞬のうちに行われるそうです。天才の、しかも今まで見たことない動きに反応と言えるほどの速度で対応したってのは、水澄と伊達が「積んできた」のを実感出来るじゃないですか!結果が出てよかった!

 

部活もので主人公が1年生だと、頼れる3年生に隠れて2年生はどうしても影が薄くなりがちです。灼カバは経験を重視する作風が自然と「1年生より経験を積んだ2年生」の存在感を大きくしてるし、それを裏付けるドラマも描かれるから2年生もキャラ立ってるんですよね。

あと気品の塊みたいに思ってた八代が頭にタオル?手ぬぐい?巻いた途端、お母さんっぽさが出てたのには和みました。かわいい。

 

第56話

 「俺の目指す方向は…こっちだ!!」試合でのカットかバックかの選択が、選手として目指す方向、つまりかつて同じ様に挑戦した王城部長と重なってるとか、んもーそういうの大好き。

各選手のカットかバックの予想の場面も面白かった。挑戦し続ける道を選ぶ王城部長、彼を尊敬する佐倉くんは宵越が一度失敗したバックに再度挑むと予想する。宵越の性格をよく知ってる畦道も同様。「失敗しっぱなしはねぇべ」というそれまでの経験に裏づけられた予想。小さくてもこういうコマが積み重ねられてると説得力生まれるんですよね。一方「もう負けない」を柱にしてきた英峰勢は一度成功しているカットを予想する。これも過去話からすると納得できる選択。

この試合の流れを作るであろう大事な攻撃の場面を能京メンバーが宵越に託してくれるのもよかった。前回あれだけがんばって守備を成功させた2年生と井浦が、確実な道ではなく挑戦する宵越の後押しをしてくれてる。いい奴らだ…

弱小でも自由に発言できて、仲はいいけどお互い競い合う、能京の好ましい雰囲気が感じられて主人公たちをさらに応援したくなる場面です。それが宵越に新しい道のきっかけを掴ませ、王城部長も刺激されていくの、本当にいい流れになってるなと思います。

 

ヒロのなんだか余裕な「フフ…」からの「ズルイよォー!!」は笑いました。うん、宵越運動面でオールマイティに優れてるもんね…そんな宵越を惜しい所まで捕まえられるのにもちゃんと理由がある。天才たちの中での彼の活躍にも期待したいです。

灼熱カバディはその回でメインになる人はいても「お当番回だぞ、さあパワーアップしろ」みたいな展開がないのが好きです。背景、動機、強さの理由が必ずそれまでに積み重ねて描いてある。そして誰かの成長は誰かを動かして、それがまた次の成長への積み重ねになって行く。前も書いたけど「話のためのキャラ」になってないんですよね。別々の背景を持ったキャラ同士がカバディという競技を通してぶつかることで自然とドラマが生まれてる。そのドラマはもちろん試合の中でも生まれる訳ですが、日本ではまだなじみのない競技のルールを分かりやすく説明しつつ、カバディならではの試合中の局面や心理状態とドラマをリンクさせてある所が見事なんですよ。

 

第57話

 カバディはアウトになると一度コート外に出なければならず、味方が得点してくれるまで戻れないので見ているしかありません。アウトにされた佐倉くんにヒロが伝えたいことがプレーに、背中に、結果に表れている見事な回でした!

コート外に出る、つまり試合に参加できない状態というのは一度カバディ自体から離れた佐倉くんの過去とも重なります。それでもお前が帰って来ることを信じている、そのための準備は俺がしてやるという、ヒロの深い信頼と献身の姿勢が得点に結びつき佐倉くんをコートに戻したっていうの、熱すぎるでしょうよ…!

また普段ノリがよくてフレンドリーなヒロがこれをやるっていうギャップが効いてね。今回冒頭の「油断しろよ…!!俺だぞ…!!?」でも笑わせられたから余計。それでも過去には佐倉くん関係では真剣な面をちょくちょく見せていたから、いきなりという感じがないのがやっぱり上手い。

佐倉くんにしたら強すぎる王城部長の影響から抜けて自分のやり方で戦いたいと思った直後にアウトにされて、それを引きずったら今後のプレーが及び腰になってしまうかもしれない状況だった訳です。だけどヒロが俺がいつでもフォローするとプレーで示して仕切り直してくれた。だから心おきなく全力で「師匠越え」に挑めるっていう展開になるの、熱すぎるでしょうよ…!(2回目)仲間って、いいな…!

 

あと今回は急成長する宵越に喜びと脅威を感じている王城部長の美しい横顔とか、君嶋・若菜の仲良くケンカしな、あたりもよかった。ギャーギャー言ってるの若菜だけなのね。君嶋なんて顔してんだよ。

 

第58話

 王城部長、腸煮えくりかえってた(トクン…)
一瞬の攻撃の中で繰り広げられる先読みに次ぐ先読み、どちらが上回るのかまったく読めなくて興奮しました。その中で露わになる意地や執念、これがあるからこの人強いんだな…

 普段にこやかな王城部長が試合中鬼のような形相になるのが安っぽい二重人格設定とかではなく、彼の中にある闘志や勝利への執念が表に出ただけというのが好きなんです。彼は常に自覚しているし、それらを燃やしてもっと強くなろうとしている。

その想いから来る強さが飛びぬけていた分、捕えられた時の衝撃も大きかった訳ですが、捕えられる要因となった弱点=軽さを逆手に取った技を合宿中に成功させてしまった。今まで圧倒的であった王城を初めて捕えた英峰の団結力と努力のほどが分かるし、それを越えようとすることで王城部長のすごさもさらに引き立つっていうのが上手いなあと思います。何度か書いてますが、誰かの成長が誰かを貶めることにならないのがいいんですよね。

そうやって「簡単には越えられない山」であってくれたことが嬉しかったです。佐倉くんも応援してるけど王城部長は導き手としてもっと先へ行ってもらいたいし、追いかけて佐倉くんも宵越ももっともっと成長してほしい。

 

その佐倉くんですが、王城部長の強すぎる影響から抜け出せたかと思えば自分の才能の方へ振り子が振れすぎているようにも見えるのが気がかりです。試合に集中するのはいいんだけど、お守りのこととか切り離さなくてもいいように思うんですが…

灼カバは後悔など一見マイナスに思えることでさえ糧になると描かれてきた作品です。佐倉くんを作ってきた様々な思い出が全て力の源となればいいけど、と考えていますがどうなるでしょうか。

私、くん付けしてしまうほどに佐倉くんお気に入りなんです。お気に入りだけど今回の「ですよね」は怖っ!!って言ってしまった。昂ってる表情と敬語のギャップがその、ちょっと怖かったよ…目カッ開いてるし…

 

第59話

 ああ、佐倉くんの「勝ちたい」はここから来るのか。心優しく誰かのために頑張ることができる彼らしい動機だ。

一番初めに見てほしい、認めてほしい、安心してほしいと思っていたおばあさんにそうしてもらうことは叶わなくなった。だから彼はカバディから離れた。けれども頑張りを友人が認めてくれていた。知らない所で別の形で願いが叶っていた。ヒロの中でなりたかった自分になってたんだね佐倉くん…

いくら期待されても強さを自覚していなければエースの覚悟は決まらなかったと思います。もともと我が強い方ではないし、一度願いが叶わなかったことで佐倉くんは自分の実力を大したものではないと思い込んでいました。力を引きずり出したのは神畑を初めとする英峰の執念と強さ。元々あった王城部長との関係の他に英峰の刺激があったから覚悟まで辿りつけたと考えると本当に合同合宿というシチュエーションを最大限活かせるよう練りまくられてるなと驚きます。

そしてなにより佐倉くん自身が情熱の行き場を求めていた。外周レースの時に宵越が気付いたように、一度遠ざかったとしても離れがたいほどの情熱を佐倉くんは持っていた。

「でもあの日からずっと、なんの目標もなく空回るこの脚を…地面に着けてくれるのは…」
このモノローグめちゃめちゃよくて…彼に魅せられたヒロが戻る場所を作って待っててくれていた。頑張りが巡り巡って彼自身を望む場所まで戻したっていうのが泣けるじゃないですか…

以前佐倉くんはサッカーのエリートでたくさんの人に認められた宵越と自分を比較して「僕はたった一人にすら…」と思っていました。だけど親友に認められていたことを思い出し、合宿で殻を破り、とうとうエースを背負う覚悟を決めた。見てほしいと思っていた佐倉くんが「見ててね」と思えるようになったんですよやべえ書いててちょっと泣きそう!

そして神畑が気付いたように王城部長をなぞるだけではなく、才能だけを頼りにするだけでもないプレースタイルに。過去も受け入れ経験した全てを力にできるようになったのだと思います。新たなスタート地点に立ったばかりとも言えますが、ここに辿りつけてよかった。本当によかった…

今更だけど灼熱カバディ面白いねえ…いいよねえ…ミリオンセラーになれ…武蔵野先生豪邸に住まわそう…

 

第60話

 おばあさんとの思い出、王城部長から学んだ技術、鍛えた体、心技体に呼応するそれらと生まれ持った才能、全てを受け入れ、佐倉学という人のまるごとの力が発揮された時のすごさかっこよさ!

漫画の中でもスポーツものっていうのは特に心境を行動に反映させやすいジャンルだと思います。活躍はもちろん嬉しいんですが、なによりその心境に至ることができたという事実がうれしいんですよ。過去を含めた自分を受け入れ、持てる力を存分にふるえるってすごく幸せなことだから。

王城部長を彷彿とさせるテクニックもパワーで守備を突破した所もかっこいいんですが、相手の思い込みの裏をかいて突破する感じがヒロがやったのと重なって見えてジンとしました。

闘争心で切磋琢磨するのが常の勝負事の世界において、感謝の気持ちで強くなれるっていうのは珍しいけど納得できる道筋がちゃんとあるし、あの礼は佐倉くんらしくてよかったです。優しい人がそのまま強くなれる姿を描けるのはすごいことだと思う。

 

第61話

 これまでは佐倉くんが戻って来ることを信じ行動し続けたヒロによって佐倉くんがが救い上げられたという面に焦点が当たっていましたが、ヒロもまた報われていたんだよという、いい話でした…

報われたこと、もちろん一番目は佐倉くんが選手として戻ってきたこと自体だと思います。だけどそれまできつい練習ばかりの間ついてきてくれた他の部員に勝利やそのうれしさを味あわせることができたのは佐倉くんがエースとして活躍できる選手だったから。これはヒロ一人では成し得なかったことです。

戻る場所を作ってくれたヒロと部員に感謝し存分に力を振るう佐倉くん、彼の実力を信じ思い切った守備ができる部員たち、自分の行動に報いてくれた彼らのためにも改めて勝利を決意するヒロ。感謝という言葉が良い循環をしている紅葉というチームの形が見える回でした。

ただこれだけいい話になると紅葉の見せ場これで終わるんじゃないのって気がしてきてちょっと怖い。すさまじい熱さを見せた英峰だってその危惧がなくもないし…こ、こんなに好きにさせたんだからこれからも活躍してよね!

 

と、全体的にはすごくいい話だったんですが宵越の佐倉くんイメージが嫌すぎる。あれじゃただのバカじゃんかー!やめろよー!

 

第62話

 うおーっ水澄ー!確かに天才が濃厚な練習を重ねてきた期間には及ばないかもしれない。けど自分が辿った道を仲間に繰り返させまいと無理を承知で挑むお前はすでに過去から前に進んだ場所に居るんだよ!カックイイよ!

無力感を抱く関に過去の自分を重ね、あの時のままではいられないと自らを奮い立たせた言葉が仲間も救うって、それは立派な成長だよ…かつて救われた側だったから感じたありがたさや情けなさをちゃんと糧にできてる。そしてこれは水澄だけの力の源なんですよね。

スポーツではメンタルの状態によって実力が大きく左右される場面をよく見ます。かなわない、追い付かない、無理だと思った瞬間に素人目にも分かるくらいパフォーマンスがガクッと落ちる。今の所、試合そのものは佐倉くんや王城部長のトップレベルの選手が動かす展開になっています。でもコートの外で味方全体の流れを変えるようなすごいことやってのけたんだよ水澄は。その意気がプレーでも報われてほしいなあ。風穴開けるとこ見たい。

今回、関と水澄、若菜と神畑の会話などで全体的に過去から未来へと時の移り変わりが意識されてたのもいいなと思いました。部活もので3年生が強烈だとどうしても卒業後勢いが無くなったりします。「同学年に天才がいる」という共通項で若菜たち2年生にも神畑たち3年生のような濃いドラマがこれからあるのかも期待をふくらませてくれたように思いました。その時が来るくらい連載続いてほしいですね…!

 

第63話

 初登場時、佐倉くんは宵越と共に王城部長を追いかける関係になるのかなと思ってました。ここまでになるとは…前回、神畑が指摘していたようにとんでもない選手が生まれる瞬間を目の当たりにしてるんだと圧倒されました。

武蔵野先生、ハードな週刊連載の中でも新しい見せ方や描き方挑戦されて驚かされるんですけど、今回最後のコマの佐倉くんもこれまでにない感じでかっこよかったです。普段の優しい、やわらかい感じから硬質な印象に変わってて、殻を破ったことが伝わって来ます。

展開の方は攻めてるなあと思いました。武蔵野先生が。これまでずっと経験が重視されてきましたが、それと同時に気持ちの力も大切にされてきました。それだけに経験の力で気持ちがねじ伏せられるような展開は衝撃だし、やられてるのが主人公のチーム。読者には面白くない展開と分かってるはずです。これを味わったからこその飛躍が今後あるはずと思っていますが、それでも人気キャラの王城部長含めコテンパンにするのは挑戦的だなと。私はただキャラ人気に乗っかるだけではない、物語に必要な展開をちゃんと行ってくれる人だと信頼感増しました。

まあ読んでる間いろんな自分がいるから一歩引いて見てる自分はこう言ってるんですけど能京応援してる自分は「つれえ!」って言ってますよね。この試合の間に一矢報いてほしいけどほとんど時間ないんだよなー!どうなるんだ…!

 

第64話

 競技は違えど場数を踏んでいる宵越のたくましさが発揮された回だったと思います。どんなに状況が一方的でも時間がある限り戦い続ければ何かが変化する可能性があることを知っている。実際に水澄の顔が上がり目に力が戻って来ました。

ハーフタイムの水澄の宣言に応えるような言葉を宵越自ら言ってるのが嬉しいじゃないですか。勝つために今、自分が頑張らなければと思っていると思うのですが、以前は仲間をあてにしてないから自分が強くならなければという考えだったのに対し、今回の行動は仲間を奮起させるためのものなんですよね。

説明があったようにサッカーでは勝っているチームが終盤無理をせず時間を使うことがあります。しかし勝っているからという油断があったり、守備の仕方に意志統一がされてないと隙を突かれ点を取られてしまうこともあります。そうすると残り少ない時間で勝っているはずのチームが混乱し、追いかけるチームに勢いが出て土壇場で逆転ということもなくはないんです。だから突っ込んで意表を突く宵越の選択は正しかったし上手かった。

しかし今回はヒロの冷静な判断もあり狙ったほどの点は取れず、王城部長をコートに戻すことはできませんでした。でも!宵越の行動で立ち直った水澄と佐倉くんをよく知ってる井浦が戻って来てるんですよね。これは何かあるでしょ、何かあってよ!最後ストラグルされてるけど!

 

第65話

 思い出すのは第3巻の校内練習。あの時捕えきれなかった王城部長と今回の佐倉くんはたぶん重ねてあるんですよね。仲間と力を合わせ、過去のリフレインを乗り越えていく水澄、カックイイぞ!

あの時部長は成長を認めてくれたけど水澄は自分の力不足を悔しく思ってました。それを経て、部長の目の前で結果を出すことができて、部長も叫びの奥の想いを分かってくれてるの、悔しさもそれをバネにした頑張りも報われたんだなって…

部長を尊敬し、合宿で模倣を超え匹敵するくらい成長した佐倉くんを捕えることで第3巻の部長vs水澄の場面超えを部長自身に見せることができたっていうの、もう本当無駄な展開がないっていうか、構成が上手くて唸ります。

部長がコート外に出されたことも「外から仲間の成長を見る」「部員は部長の力なしで結果を出す」というシチュエーションに繋がってるものなあ。

静かなトーンで積もって行く、もどかしさや追い付こうとするもがきが描かれてからの大迫力の見開きという絵の緩急も素晴らしかったですね…!水澄のこれまでの想いが爆発したようだった。

相変わらず経験がものを言う現実的でシビアな世界観であると同時に、想いは必ず力になる、その強さには経験や才能の差は関係ない、と描かれてる所が大好きです。エースでもない、積み重ねもない、それを認め、追いつこうとしたからこそ、その想いは水澄だけの力になってる。

宵越の「やってくれるぜ先輩…」というモノローグは後悔も含めもがいてきた水澄の年月に敬意を払っているようで素敵だし、エースだった過去がありながら素直にそう思える宵越がまた好きになるんですよね。

 

この試合の間、お互いを動かしてきた水澄と宵越のバトンはとうとう宵越最後の攻撃へ。受け取った宵越の「俺の番」と、受けて立つヒロの「俺たちの番」という応酬がお互いの「こんだけのもの背負ってんだ譲らないぞ」って意気を感じさせていいなあ…!