さわやかサバイバー

好きな作品の感想を書いています。カテゴリー一覧は50音順で並んでいます。

灼熱カバディ 単行本第11巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。

  

続きから第11巻ネタバレ感想

 

第97話

 どんな過去であれ、経験や想いは力になると描いてきた灼カバ。しかし律心はチームとして我を抑える方針を取り、エースは過去をすっぱり断ち切ることができる。作品の世界観に挑むような敵だけどまだ2回戦よ?ここでこんなん出してきていいのー!?

簡単に熱血パワーで勝ったなんて展開になったら一気に冷めてしまうような、料理の仕方に気を付けないといけないような相手だと思うんです。灼カバはそんなことしないだろうけど、ならどうするのかって予想つかなくてドキドキする。しかし出し惜しみしない漫画だよ。

昔野球をしていたという大和の過去も明らかになり、同じく野球をしていた伊達と因縁でてきましたね!今回の攻撃で伊達がやられたこと、それは大和が伊達を守備の要と判断したからだということ、あわせて考えるとようやく伊達にスポットが当たりそうな気配が!水澄は部長との練習試合や合宿の佐倉くんとの対決で結構スポット当たることあったから相棒の伊達の番が待ち遠しかったよ!しかも待望の黒目対白目になりそうじゃん。

 

ところで明るい兄貴気質、俺らのリーダー外園にサスペンダーというかわいめのアイテムが付与された時の絶大な効果を誰が予想できただろう…めっちゃ似合う。武蔵野先生天才か…

 

第98話

 能力では勝っているはずの王城部長が後手に回される。原因は分かっていても対処できない。これまでの興奮で手に汗握るのとは違う、突破口の見えない緊張感でじっとりと汗ばむような試合が続きます。バリエーション豊かで面白いんだけど、これどう勝つんだ…!

 

これまで試合に臨む姿勢では主人公たちと真逆という印象が強かった律心ですが、勝つために「経験や技術の差を埋めるための作戦」を採っている点で井浦と重なることが分かり、それが変わってきました。

2回戦ならそれほど強豪とは当たらせられない、かといってただ1回戦をグレードアップするだけでは変化がない。色々メタな事情はあると思うんですが、そこでこういう作戦を採るチームと監督を持ってくるのが上手いんですよね。

強豪ではないから勝つために特殊な作戦を採る必要がある。それは天才に勝てなかった凡人が必死に考え抜いたもので、共通点が見えてきたことで亜川と久納、井浦と王城、複数の関係性に反射する光になりました。

そしてそれは真逆の印象ばかりだった能京と律心が「強豪に挑むその他大勢」という同じ立場であることも照らしてくるんです。この印象の変化はこれからの試合を深くしてくれるぞ、とゾワッと鳥肌が立つような気持でした。しかもそれを今回1回でやっちゃうんだからもう。

 

コメントにもあったように律心の作戦は大和ありき、作戦ありきなんですよね。大和が追い出されたり、作戦が機能しない状態になったらどうするんだろう。次の策があるのかな。
ラストは結構ピンチだったけどあれかな「その名もスーパータックル(名前がダセぇ!!)」が適用される展開の可能性ある?

 

第99話

 王城部長の「圧倒的に強い」というキャラクターはそのままに、体格面で恵まれなかった点が常に戦いに緊張感もたらしてるの本当上手い。部長信じてる…!でも律心の守備は相性が悪すぎる!でも部長なら…!!

何がすごいって部長の強みも弱点もすでに描かれて説明が済んでるのにこの緊張感が出せるっていうことですよ。ただ複数人でとらえに行ってもかわすスピードを持つ彼をカバディエリート不在のチームが捕まえられるか?いやできるかも…って展開にしちゃうんだもんなあ!

ただ王城部長の一番すごいところは、その身体をさらに削るような猛練習をしても強くなろうとする精神面だと思っています。死地へ当たり前のように踏み込む姿勢が彼が歩んできた道を示しています。その想いが生む力で何度も状況をひっくり返してきました。だから今度も…!っていうのと、次回が第100話だから節目に新しいステージに入ってしまう可能性も?いやいやアニバーサリーだからこそカタルシスが来るのではっていう期待とでグラグラです。もう分かんねえ!とりあえず100話はめでたいねー!!

 

 第100話

  祝100話!祝3桁!これからもお祝いできるよう連載続きますように!微力ながら応援してます。そんな節目の話は、灼熱の夏に堂々と背を伸ばす向日葵のように作品の核とはこれだと見せつけんばかりの王城部長の活躍でした!

他人からはマイナスに思えるようなことでも、それはその人だけの経験であり強みにできるんだということは今までくりかえし描かれてきました。スポーツをする上で重要な筋力をつけられないハンデを、攻撃特化という前向きな方向へ変えられる王城部長はまさに作品全体の指針なのだな。

これしかない、という覚悟が悲壮感ではなくすがすがしい笑顔で描かれてたのが印象的で。後がないという考えではなく、前にしか進みようがないととらえているところにどこまでも成長する強さの源を感じ取りました。目指す対象をチームの中に見つけられない頂点の苦労が指摘されたときには自分を追い込む方向へ行ってしまうんじゃないかと少し心配したのですが杞憂でしたね。ごめんまだまだ認識が甘かった。

それで聖人のようになるんではなくて魔王様になっちゃう強さへの執念が彼独自の魅力だし人気の秘訣なんだと思います。自分のすべてを賭けてるんだものね。合同合宿の時の「簡単に越せると思うなよ…」とか超好き。なんて自負だよ。

 

それでも選択肢がない道は相手に対処されやすく、自分が取れる戦法も限られてくるはずで、きついことは簡単に想像できます。一番側で見てそれを知ってて、今回の活躍も喜んでくれる井浦という存在がいるのが嬉しい。自分もコンプレックス抱えてるのにさ。

そしてあのラスト!見ました奥さん!?強烈な印象を残した奏和戦のリフレイン!だめだよリフレイン演出は弱いんだよヒィかっこいい…!

 

第101話

 一進一退、エースが握る試合の流れ。しかしそこからはみ出した守備の崩壊がどちらのチームでも芽吹いている。だからこそエース以外の働きが重要になってくると思うんです。突き抜けろ伊達…!

前回あれほど王城部長の強さを見せつけて、今回もその結果がいい流れを作り出す効果を描きながらそのデメリットにもしっかり触れるという…あまりにも強すぎる人が仲間にいるから自分を無力に感じてしまう、それは分かるけどこのままだと冬の大会の繰り返しだからなあ…!

大和がニヤついてわざわざ指摘したのは伊達の一瞬のためらいを見て確信したからだろうけど、裏を返せば「こいつが力を発揮したら怖い」と、それだけ伊達の守備力を高く評価してるからだと思うんです。律心のようにガチガチの指示がされているわけではない能京なら一人の動きが変われば流れも違ってくるだろうし、そのきっかけを伊達に期待したいんですよ。守備自体の連携はでき始めているようだし。目覚めろ守備の要。

 

今回、キャプテンシーについて他の誰でもなく外園が語っているのがうれしかったです。でもこれモノローグだから読者には解説してくれたけど結局安堂にはほとんど解説してあげてないな。外園、過去には他の選手を研究して自分のキャプテンらしさを模索したりしてたのかな…

 

第102話

 試合前に危惧したのは、前年悔しい思いをした二年生の気合が力みや空回りなど悪い方向へ行ってしまわないかということでした。こういう時にため込んだ悔しさを正しく試合に活かせる方向へ向けてくれる指導者が今は能京にいるってことがありがたいなあ。

大和の才能を利用しつくした作戦は成果を上げていて、知略の面では亜川監督の方が勝っているのかもしれません。でも精神面のフォローっていうのも指導者の大きな役割で、久納コーチはそれをちゃんと果たしてくれてるんですよね。

頭に血が上っては大和の思惑に踊らされるばかりだったでしょうが、久納コーチが作戦を授け、正しい血のたぎらせ方を示してくれたことで最後、とうとう大和をこちらのテリトリーに引きずり込めたって訳ですよ!これも連係プレーだよねえ!

 

こだわりは不要と言い、極端な割り切りができる大和ですが、あれだけ効果抜群な煽り方できるってことはどう言われれば悔しいかよく知ってるって可能性もあるのかな。それだと野生の闘いでも有利とは言えないかも。この状況で切り替えられたらそれもすごいな。どうなるんだろ、次回も見逃せない。

 

第103話

 上向くなよって言われても向いちゃうよなこれは…!めちゃくちゃ熱い意地の勝負の後に後悔を洗い流すようなたった一言。緩急で泣かされる…

 

肘が当たるアクシデントの後、すぐ自陣に戻る判断をした場面、予想外の出来事があっても冷静に対処できるのは大和の強みなので、取り乱したりして弱体化させたりすることなく、大和の良さを出させたうえで水澄の意地が競り勝ったというのがよかった。

勝負の後に大和が初めて見せた悔しい表情。ここから揺れ動いていくのか冷静さを取り戻すのか、亜川監督は何か手を打つのか、気になりますね。大和ひとりでもってるようなチームだものな…

試合が始まった時から言ってますが、想いが力になると描かれてきた灼カバで我をなくせというチームがどう描かれるのかっていうのは、作品の印象に大きく影響を与えるものだと思っているので、大和の感情をどう扱うのか注目したいです。我をなくすという選択も経験し重ねた想いの結果、みたいなことになるのかな。

 

伊達はね!これだけフラグ立てたら絶対見せ場来ると確信してるからね!今はただ黙って待っとくよ!

 

水澄は相手と対等でいたいってタイプなのかな。舐められたくないも、守られっぱなしの役立たずでいたくないも「対等でいたい」が違う方向で表れたように見えます。ケンカって力が一方的では成り立たないしね。

灼カバ、水澄中心に読み返してたんですけど、不良だった頃一人でも無敵だと思っていた彼が王城部長に会って鼻をへし折られ、そんな部長でさえ一人では勝てないカバディという競技を知り、力になれなかった後悔から奮起し、一度負けた相手に「俺『達』は、もう違う」と言ってるの熱すぎない?

勝つためには突出した一人の才能だけでなく、守備の連携が大切になるというカバディの特性と成長が繋がってるの見事なんですよね。第103話は水澄の活躍で大和を止められた訳ですけど、そこへは決して一人ではたどり着けなかったと身に染みてるから出た「俺達」なんだよなあ。

王城部長を意地の勝負にまで持ち込む、ためらいなく特攻する、という水澄の闘志は強みとして描かれながらも、経験者の積み重ねには及ばないというシビアさがあって、それを埋めるべく合宿等で切磋琢磨した道筋がちゃんと描かれてるから、今回闘志が武器として通用したことがご都合主義になってない。

宵越も畦道も関もなんだけど、もともと持っていた才能や力は武器だけれども、カバディで通用するためにはカバディの選手としての成長が不可欠となっていて、選手として強くなることでそのキャラの良さが真に発揮されるというのスポーツ漫画として理想的なんですよ。

今回水澄の闘志が空回ることなく発揮できたのは久納コーチの作戦と指導があったからでもあり、そもそもコーチを引き受けてくれたのは能京がチームとしてまとまったからで…ときれいに繋がってるのもすごくて。今回の結果がコーチにも影響を与えて次に繋がっていくんだろうな…

 

第104話

 今まで感情vs合理みたいに考えてたけど対立するものではないのかも。合理的な手段も「勝ちたい」という想いを実現するためのひとつの方向なんだ。風化していく情熱のシビアさも描く、熱けりゃいいってだけでないのが灼カバの好きなところ。

想いは成長の糧としながらも、それがあればオールオッケーにはしないんですよね。素直でやる気もある畦道でも、自ら学ぶ姿勢がなければ未熟だと指摘されるし、初めて見つけた本気の目標に届かない悔しさに泣く人見の姿を情緒たっぷりに描いても、近道はないぞとちゃんと言う。

好きだ、こうなりたい、というプラスの想いはしかるべき方向で努力を重ねて結果に結びつく。その方向がずれてしまっていたのが律心メンバーの過去で、結果がともなわないうちに最初のキラキラしたモチベーションがいつの間にかどこかに行ってしまっていたというのは、悲しいかなよくあることで辛い。

しかるべき方向として合理的な方法を選び、結果が出たことでかつての情熱が戻ってくるという、逆向きの展開のようでこれまで描かれたことを思い返せば納得という展開。一貫しているのに多彩ですごいわ。

 

亜川監督は選手時代日本一になれなかった悔しさから何よりも勝てることを第一に考えて我を捨てる方向を選んだと思うんだけど、ナチュラルボーン割り切り野郎みたいな大和にそういう分かりやすい「勝ちたい」があるかは謎だな…

たとえ本人が効率重視のゲーム感覚でやってるだけだとしても、それが人に情熱を取り戻させる作用があるというの、すごく面白い。分かりやすく素直に好きになれるキャラだけじゃなくて掴みきれなくてもその人なりの強さがあるしそこが魅力だと伝わってくるんですよね。ふところ深いぜ灼カバ。

 

律心の我を抑える方針から素顔が見えなかった大和以外のメンバーの過去が描かれてみれば、また試合の印象を変えてしまう話でした。たった一話でこれやっちゃうんだものな。

マイナー競技だから進んでやろうという人は少なくて、誘われることで挫折した人や夢中になれるものを見つけてない人の受け皿になることが多く、再生していく熱い物語が生まれやすいっていうのも上手い。競技の特性と作品の方向性が一致してる成功例ですよね。

 

第105話

 スポーツ漫画の定番に、主人公側は弱小で色々恵まれた強豪やエースをどんな方法で打ち負かしていくかっていうのがあると思うんですが、宵越がハイスペック野郎なため律心の方が主人公側っぽくなってるの面白いなー!律心戦は立場の印象を天地ほど変えられること多くて、試合開始時の閉塞感ただよう雰囲気から予想できないほどダイナミックに感情ゆさぶられてます。

王城部長にプレッシャーかけ続けて消耗させるということさえも宵越対策の一環だったのか!こういうね、ひとつの山場だけでも熱いのにそれが次に繋がってさらに大きな流れになっていくところ私好きなんですよ。

亜川監督の読み違いで能京のリードを許したことに対して、大和はフォローしてる暇あるなら建設的に行きましょうよという態度でしたが、宵越対策が当たったことで亜川監督への信頼感は増したはずですよね。あの大和が驚いた顔するくらいですもん。

結果を出すことで積み重なる、これもひとつの信頼の形。我を抑えるプレーをしてても、この積み重ねがあるかないかでは律心の団結力は変わったはずだと思います。この成功、今の試合だけでなくその後も影響しそうな気がするなあ。

 

第106話

 エース同士という個の対決では破れた。しかしその間も牙を研ぎ続け、「エース以外」の勝負に持ち込みとうとう喉元に届かせた、という試合展開が亜川監督の人生やそこから掴んだ理論に重なってて「やったな…!」って思ってしまう。対戦校の監督なのに。

武蔵野先生、たった1話でキャラを主人公にしてしまう達人だな。短いエピソードでも引き込まれて好きになってしまう。本当の主人公はなかなかいいところ見せられてないけど。カッカするなよ宵越!

前半、律心は監督がすべて指示しているし、大和のワンマンチームだしで、ここがつまづいたらどうするんだと思ってたんですよね。しかし実際は予想外の展開にも動揺が出ないほどの土台ができていたし、大和に注目させていたから奇策が功を奏したという。うわーやられた…!

亜川監督、試合前の情念たぎらせてた様子から久納コーチに一矢報いれたらザマミロー!って態度するかと思ってました(亜川監督をなんだと)あくまで試合は選手のものと言いながら、満足感や達成感、かすかな優越感を「パイプ椅子に座る」という地味な行動ひとつで見せてくるの、いいっすね…