来季ETUを去るかもしれない控え選手たちが力を示し、人が変わり年月を重ねても一貫した哲学を持ち続けるクラブの強さを改めて考えさせられ…と、なんとなく今シーズン後を見据えたエピソードが多く、まとめに入っていくのかなと感じられた第57巻でした。試合をガッツリ描けばまだまだ先だとは思うんですが、ちょっとしんみりしてしまいました。
続きからネタバレ感想
あんまりウェットなドラマにはしないジャイキリだけど、天宮杯徳島戦後半は「今季限り」を感じさせる場面が多く、切なくなりました。達海の「縁があったら頼むよ」とか、広井の「後は託したからな」とか。交代選手の肩を抱いて迎える姿に見られるように、達海は控え選手も大事に細やかに見てきたし、選手も他のクラブで羽ばたく可能性もあるけれど、ETUではこれまで。勝負の世界の厳しさを感じるとともに、同時に徳島の選手の描写を今後の希望として示してくれていたのがよかった。
現実でも、応援してるクラブで芽が出なかった選手が移籍して活躍してる様子を見るのは、複雑な気持ちにもなるけどいいものです。単に出場機会が増えるだけでも見違えるようになっていく選手たくさんいますもんね。単行本がちょうど現実のシーズン終わりの、移籍の話を目にすることが多い時期に発売されたので余計胸に迫るものがありました。
ジャパンカップを制したのは鹿島でした。フロントも含めたクラブ全体での哲学の継承の話は、対戦相手の分析というだけでなく、ETUが今季の成績をまぐれにせず本当に強いクラブになってくための指針として示されてるような気がします。人が変わっても続いていく、という面で考えると達海の去就がやっぱり気になったり。うう、どうなるんですかね…達海が去っても意志は引き継がれていくよ、という展開は確かに美しいんですけど、ファンとしてはそうなったら寂しいし…
一方で村越さんは鹿島をよみがえらせたキャプテン、五味選手と比較して自分をふがいなく感じているようでした。キャプテン以上の責任を負わされていた村越さんを解放するところからETU再生が始まったけれども、今はいち選手の村越さんがまたキャプテンシーを見直すような展開になるんでしょうか？
最初の頃を思い出すと言えば椿の場面もですね…！達海から奮起を促すわけでもなく、俺は監督として責任引き受けるからお前は任せて選手としてボール蹴ってりゃいい、って言葉はむしろいつも通りと言えるくらい。だけどその「いつも通り」に椿が笑顔を見せられるようになるくらいの信頼が積み重なっているんだと伝わる場面でした。
たった2コマだけど達海のどん底真っただ中の姿は衝撃でした。やっぱりあったんだそういう時期…ただ「そういう時は待つしかない」と振り返るにとどめ、「そういう時」に必要な存在として頼れと、監督という仕事上の役割から椿に語ったのがジャイキリらしいなと思いました。ウェットにはしないけど、仕事上の役割だからって情がないわけじゃないんですよね。
椿がクラブハウスに戻るきっかけになった窪田くんとの会話もよかったね…相手が窪田くんだったから椿があそこまで落ち込んだんだけど、窪田くんでなければこんな風に復活もできなかった気がします。変わり者として描かれてきた窪田くんの浮世離れしたところとか、案外思ったことハッキリ話すところが、今回は部外者の評判に惑わされずにまっすぐ伝えてくれる人、として発揮されてました。その上で子供同士みたいに心開いてキャッキャできる友情育んでたから椿も素直に気持ち告げられたし、窪田くんの言葉も受け入れられたんじゃないかな。
登場初期はマスコットキャラクターみたいだったし、マイペースさばっかり目についてたけど、周りよく見てるし冷静だしタフだし窪田くんすごいな…器でかいな…
そして迎えた大分戦。サポーターの椿コールにはうるっとしました。怪我で長期離脱していた選手が復帰した時などでこういうコールを見たことありますが、見てる側でも心強く、包み込まれるようなあたたかさを持つ声なんですよ。忘れてない、信じていた、帰ってくる場所はここだ。いろんなものを失った後に、こんな風にコールに込められた肯定を受け取ったらどれだけ励まされただろう。最後にバス囲みのツッコミ入ってるの笑いました。あったねえ。
シーズン終盤ともなるとその一戦で天国と地獄に分かれるような試合があるんですよね。大分は降格が決まるかどうかの試合だそうで。ウッ…能天気にETU勝てー！とは言いづらい対戦。達海のてっぺん獲りたいなら非常なくらいの強さで叩きつぶせ！って言葉はその通りなんですがね。今季前の自分たちとも言えるクラブに勝って、過去を乗り越えろってことでもあると思うし。そんなタフな試合で復帰できるくらいになってるのか、椿…！
PK時のボール取り合いとかキャプテンの仕事したのにガブに拗ねられる杉江とかは和みました。だいぶ貫禄出てきたなって思ってたのに。かわいそうかわいい。
