さわやかサバイバー

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新九郎、奔る! 第1~3集感想

Twitterに上げていた新九郎、奔る!(ゆうきまさみ 小学館)の感想をまとめたものです。

続きからネタバレ感想

 第1集

 北条早雲の生涯を少年期から描くゆうき先生の新作。いいところの子だけど田舎から出たての少年の目を通して描かれるので教科書的ではない、身近な視点から描かれるのが歴史詳しくない人間にもとっつきやすかったです。

「文正の政変」とだけ書かれると「ふーん」って感じだけど「官僚の伯父が突っ走って失脚!とばっちりで親も!その時、子供は!その一日を追った」みたいにあくまで小さなスケールから始まってるから「千代丸くん家どうなるんだ…」ってホームドラマ見てるみたいに続きが気になります。

会話などを通して大きなスケールの人間関係も無理なく分かりやすく紹介されてるんだけど、子供だから知ることもできることも限られてて、そのもどかしさが「早く大人になりたい、武士になりたい」という主人公の心理と読み手の心理を重ね合わせていく効果となっていました。

 

カタカナ語とか「工事中 ご迷惑おかけします」の看板室町バージョンとか、雰囲気を壊さない程度のユーモアがしれっと混じっているのがいかにもゆうき先生らしくて笑いました。

それと同時に、微妙な権力関係の相手に仕える時に「平身低頭はともかくとして…誠心誠意ではなくてもよいのだ」とかいう台詞が出てくるところがいい。いつ権勢が揺らぐかしれない時代に生きる人の価値観がこの短い台詞で読み取れるというか。

 

「御所のまわりは妖怪の跋扈する巷よ」という台詞にもあるように、油断ならない複雑極まる権力闘争が描かれてるのに、どのキャラにも親近感抱かずにはいられない人間らしさがあって、ゆうき先生の軽やかなユーモアでもって描かれるからワクワクする物語になってるのあらためてすごいです。

今のところ少年らしいまっすぐな正義感を持つ新九郎がこの時代の中でどのくらい変わってしまうのかなーって気を揉んだところで冒頭の「三十八歳!」発言を思い出して無事ニッコリ。かわいいぞ三十八歳。

 

実は以前、岡山県の桜の名所に行ったら「早雲祭」が開催されてるの見かけて、早雲って北条早雲?関東の人がなんでこんなところで祭に?って気になってたんですよね。どうも出身地らしくて。今後コラボとかないかなぁ…田舎だから無理かな…

 

第2集

 新九郎、奔る!第2巻もすっごい面白かった…現代語やユーモアを交え親しみやすく読ませながら、要所要所でこの人たちは性別も年齢も関係なく戦をしている時代に生きているのだ、とハッとさせられる手綱さばきの妙。それが当たり前になってきたころに時代にゆがめられた人が出てくる衝撃ったら。

どんな愉快そうな人も気楽そうな人も、腹の底には自分や他人の命を取り合う覚悟があって、いまと状況が違うから根本のところが違うんだろうな、と分かったつもりになってたら時代のせいで生来の性根を曲げられてしまったような人が出てきて頭ぶん殴られたような気になりました。すげえわ。

 

そんな中、元服したからもう大人なのにお菓子もらって喜んでていいのかなー?って思ってる12歳新九郎くんがかわいくてですね。いっぱい食べな…

 

第3集

 相手の内面勝手に想像して一人でネガティブになっていくの、よくやっちゃうので今出川様の気持ち分かる…
まっすぐだけでは駄目、それを我が身全身で知ってしまったまっすぐな気性の新九郎は今後どういう風に変わるんだろう。好ましいままでいてほしい、とも思うけど、それがどれだけ酷かも知ってしまっただけに、気軽には言いづらい…

 

八郎兄さんってこの通りなら史実はどうなってるのかと思ったら、やはり詳細は不明なまま新九郎に家督が移ってるらしいですね。ほぼゆうき先生の創作なのかあれ!
敵味方がころころ変わり誰を信じればよいのか、誰に心を寄せればよいのか分からない戦乱の世がどんなものであるのか、先駆けとなって新九郎に見せ、「家人が恥じぬ主」の種を植え付ける流れ、ドラマティックながらも自然で感動したのに、その流れすらも創作だったんすか…すげえ…

 

細川殿の意外とお茶目な面が見られたのは数少ないほんわかポイントでした。
「出ておいた方がいいかなー」って。