さわやかサバイバー

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新九郎、奔る! 第4~7集感想

Twitterに上げていた新九郎、奔る!(ゆうきまさみ 小学館)の感想をまとめたものです。

続きからネタバレ感想

 第4集

 井原は地元というには遠いけど馴染みのある土地なので1ページ目の「現在デニム生地・製品の生産で知られている」で思わず単行本押し頂いてしまった。フィクションの方言ってこそばゆくなることも多いのに会話がすごく自然!これまた丹念な調査の成果?

 

地元感だらけの感想以外も。地方の、グダグダになった、親類絡みの、扱いにくい領地問題。ま~~~よくもこんな地味でめんどくさい状況をこれだけ面白く描かれるなー!第3集までも複雑な状況とはいえ、都で有名人が出てくる華やかさがあったものの、それを取っ払ってもなお面白い。

新九郎は嫡子ではなかったけれども良家の子なので、ちまたの空気読めなかったり、持ち前の理屈っぽさからやらかすこともある。その未熟な所はきちんと描かれてて、その上でそれらの性分の中心にある「まっすぐさ」が縁を引き寄せてくるのがいい。さわやかな印象を残してくれます。

新九郎に付き従って荏原郷にやってきた家臣の面々もいい。すごくいい。方向性ばらばらなのにそれぞれツボを突いてくる。誰派?って語り合いたくなる魅力がある。私はね~悩むけど三郎派かな~お調子者だけど意外と苦労人ポジションな所とかね~一族のDNAの強さとかね~!

 

狐の再登場シーンとか父上の「もりさだスクリーン!」笑った笑った。寝込んでたのにそんな名前まで付けてたんですか。
しかしそうやって笑ってると退場=死の世界観を喉元につきつけられてヒュッとなるんですよね。うあーこの緩急。乗り切って新九郎…

 

地元アピールしておいてなんですが、那須一族の話は初耳でした。リアルに「へぇーっ!」って声出た。おちゃめかっこいいつる殿のキャラクターも、野蛮と言われつつ、したたかな振る舞いを見せる一族の今後も目が離せませんね。

 

 第5集

 ゆうき先生じゃなきゃここまで面白くできない。地方が舞台、親族のごたごた、という地味素材でどうしてここまでグイグイ読ませてしまうのか。職人技のユーモアセンスに笑っていたら、急に武士の価値観を喉元に突きつけられる緩急も毎度お見事です。

 

世代交代で事態が思わぬ好転をしたり、でもよいことばかりではなくて不穏の種も生まれたり。小さいころは「早く大人になりたい」と言っていた新九郎だけど、大きくなってもできることとできないこと、めんどくさいこととめんどくさいことの板挟みで、いくつになっても君大変やな…

それでも新九郎自身が前向きに問題に取り組んでいるので明るさが失われないのがいいんだなあ。つる姫が男に生まれたかったとこぼすのも、励まそうとするのも、新九郎のそういう姿勢を好ましく、うらやましく思ったからでしょうね。

 

今回、いろんなところで世代交代が見られたんですが、いい兄貴分だった貞宗さまの変化がショック。お父さんに似ちゃってぇ…

 

第6集

 表紙見て「あまずっぱーい」とか言ってたら、本編は二段ジャンプのち急カーブだったのでたまげました。お家的にはそのほうが…でも新九郎の心境を思うと…うーん!

几帳面さと青臭さが同居していた新九郎が今回、抗争や金策や恋愛という生臭い難題と取っ組み合うのだけど、変に擦れることなく、彼の良さを維持したまま人間として幅を広げてくれたのがよかった。やっぱり主人公は好きでいられる人物でいてほしい。几帳面さも初めて?役に立ったね。

夢に兄上が出てくる場面は笑わせられながらも、やはりあのできごとが新九郎の目指す武士像に大きく影響を与えているんだろうなと感じました。望んでいたわけではなく、転がり込んでしまった主の座だからなおさら、立派でなければと律しているんじゃないかと。

それがもともとのまっすぐな性格とあわさって、「利や欲が絡む世俗を生き抜く」と「好感が持てるさわやかさを維持する」を両立しているのがお見事なんですよねえ。しかもユーモアでくるんで楽しく読ませちゃうんだもの。

 

恋愛問題で同世代の家臣がみんなでどったんばったんしてるのはほほえましかったです。「やんないよやんないよ」とか「なにちゃん?」とか、いちいち言葉づかいがかわいいんだよなー三郎!

 

第7集

 歴史もので家督を継ぐイベントってさあここからなにかを成し遂げるぞ!って意気揚々としたもののイメージがあるんですが、この作品ではしみじみとした「大変だな…」という感じが続いているのが面白い。いや当人は本当に大変なんだけど。

老いていく親や親族、引き継ぐゴタゴタ、金のやりくりに目上の人間の気まぐれ…いつの時代も変わらない普遍的なしんどさに共感したり新九郎えらいなあと思ったり。
感染症の流行や大雨の被害は逆に「いまこれがシンクロしてくるか」という驚きがありました。

戦はダラダラ続いたままだし、全体を見るとしんどい流れなのに、あいかわらずユーモアで包んで楽しく読める作品にされているのが本当にすごい。

あと新九郎自身が細かい作業好んでやってるのも救われます。筆セットの角度直してるのは笑った。よし!じゃないよ違いわかんないよ!墨をする時の音は「ゴイスーゴイスー」

 

そんな中だから、老いたようでも山名宗全が変わらぬ気迫を見せだす場面はうれしくなりました。いつまでも人好きのする怪物でいてほしい。
とか思っていたら最後にもう一人の怪物が!そしていやにあっさりした新九郎の反応。えっそんなもんなの?それも世代交代の表れなの?