さわやかサバイバー

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GIANT KILLING 単行本第58巻感想

 前回より過去へさかのぼって描かれれる椿の原点。それを見つめなおすことで彼の可能性が未来へさらに広がっていくようなリフレインでした。

 

続きからネタバレ感想

  様々なリフレインが重なって胸が熱くなる第58巻だったんですが、私が思い出したのは第2巻の達海の「長年お前が自分を変えたいと思ってきたその想い… そいつはすげえパワー持ってる」でしたね…

自分でもどうしていいかわからなくなって、足元も定まらなくなっていたけど、他の誰でもない自分が積み重ねてきた土台の上にちゃんと立っていたんだと気付く。僕は何をやってる?どうしたい?どうすればいい?と投げかけた疑問に対する答えが、積み重ねの層の厚さ分エネルギーとなって返ってきたようでした。変わりたいと思ってきた、そのためにどんな時でも体が動くように練習してきた、結果今そこに立っているんだろ?と。

 

それはただ一人、椿自身が成し遂げてきたことですが、そこに「周りの人と繋がりたい」という動機があるのが椿らしいところです。見せつけるとか成り上がるとか、自分のためではなく、周囲の人を活かし活かされたいとプレーしてきたことも、今回彼を立ち直らせる助けとなりましたよね。達海が責任を引き受けピッチに送り出してくれなければ、考えられなくても体が動くと気付けなかっただろうし、ジーノや村越さんのフォローがなければ「やれるかも?」って思えなかったでしょうし。

それにしても、ああ見えて他人のことよく気付くジーノはともかく、村越さんが無骨ながらも結構直接的に頼れって言ってくれるのグッときました…!最後背中向けて言うしさ!惚れるー!そう言えば村越さん最初チーム全体のことを考えすぎてがんじがらめになってるような人だったな。あんたがミスターETUだ…

 

最後、達海が言っていた「お前は誰よりもデカイ挫折と引き換えに それ相応の伸びしろを手に入れたんだ」という言葉、きれいごとというか物は言いようだと思うところもあるんです。でもきっとそれでいい。多くの信頼を裏切って、あの件がなければ手に入っただろうたくさんのものを失ったことは間違いない、それは達海もわかってて言っている。だからもうそこから始めるしかないんですよね。そんな時に今回の経験を経たからこそ手に入れられるものに目を向けさせてくれるの、本当に名指導者だなあと。世間の評価はどうあれ、椿という選手が身に付けたものはそのまま残っている。そこにさらに伸びしろが加わるとなると、達海の言う通りナンバーワンの選手になってしまうかもしれない…と、読者にも可能性の光を見せてくれた転換がすばらしかったです。

これを選手としての再起は叶わなかった達海が言っているかと思うとまた…むやみに悲劇の人と憐れむのも失礼だけど、椿が本当にナンバーワンの選手になれたら達海もどこか救われるんじゃないかという気がします。達海自身には余計なお世話と言われそうだけど、そういうところも含めて、あらためて今後の椿に期待したくなる巻でした。

 

 

大分の、もう来季を見据えている監督やフロントと、残留の可能性を手放さない選手たちのすれ違い、生々しかったですね…ありそう、あるんだろうなあ…次のため次のためって、じゃあ何のために今ここで体張ってるんだよって思うよなあ。最終的に小松監督の「大分の選手の力を信じている」面がいい方向に発揮されてよかった。

黒田が語る「残留争いの壮絶な日々」の生々しさもなかなか。「プレーしてても…なんかもう全員目がヤバイ」うわそれはヤバイ。黒田も胃が痛くなるんだ…

ETUのベタ引きフォーメーション、ありましたねえ。今の戦い方が通用しなくなっているならともかく、問題ないのに変えるのは勇気がいると思います。サポーター目線でも「そのままでいいんじゃない?」とか思っちゃう。でも残留争いを続けていた時の思考から脱却する証を見せるための大分戦でもあったんですね。

自分たちが認める自分たちの姿を更新し続ける意志が、挑戦し続ける姿勢が、プレースタイルに反映されていくのはスポーツものならではの醍醐味ですね。

 

そんな大事な時期にさあ!怪我しそうなことやめて世良!しかもプレーじゃないところで!わざわざ器械体操の教室通ったの健気だけどさ!「ちょっと注目!!」からのバッはかわいいけどさ!でもそんなお調子者なところ含め、世良らしい元気な姿が久々に見られてうれしかったです。でも怪我すんなよ!