さわやかサバイバー

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GIANT KILLING 単行本第61巻感想

 リーグ優勝のかかった大一番を迎える面々!…のはずなんですが、なんだろう各方面のこのゆるさ。いや、ゆるいっていうより楽しい、かな。真剣に試合に向き合いつつも、周囲の人々も含めてこの貴重な機会をめいっぱい楽しもうというような雰囲気です。降って湧いた幸運に浮ついているのではなく、ここにたどりつくのにふさわしい努力をしてきた人たちであることを思えば、この瞬間を存分に楽しんでほしいし、それまでの道のりを思い出すと感慨深くなりますね。

 

続きからネタバレ感想

 

「俺たちがここまできたのは 決して奇跡なんかじゃないよな」

 

達海が、あの達海があんなまっすぐな言葉を言うとは思わなくて、でもその時のまなざしがまた本当にやさしくて、ああ、その通りだなと思ったのが大きいです。

勝者のメンタリティとはよく言われますが、勝たなければそれは手に入りません。勝者だって最初からずっと勝てたわけじゃなく、どこかで歴史を変える勝敗があったはずです。そうでなければ長年受け継がれてきた強固な信念がある鹿島にETUが勝てる目はない。だけどそれができる時というのは、幸運が重なってたまたま転がり込むというようなことではなく、勝者にふさわしくなるよう自分たちを変え続けた人たちの最後のひと押しのようなものなんだろうなと感じました。

こういうところ、リアルとエンターテイメントの合わせ技が持ち味のジャイキリらしい到達点だと思いました。弱小クラブが強豪を打ち負かすというのは確かに爽快ですが、それだけにとどまらず、そこから抜け出し、底力のある強さを身に付ける簡単ではない道のりを読者を楽しませつつ61巻かけて見せてくれました。弱小が強豪を打ち負かす一瞬の爽快感とは異なる、強豪となって強豪と渡り合う、なんていうか胆力のある面白さはこの積み重ねでこそ生まれたものですよね。

現実では勝者にふさわしい強さを身に付けつつも、それを定着できるかどうかの大一番で勝てなかった例もたくさんあるんでしょう。だからこそETUには勝ってほしい。努力をしてきた人たちが報われる希望を見せてほしいと願います。

 

希望のある展開といえば、椿の選択も「よくぞ言ってくれた…!」と感動するものでした。選手生命の短い競技ですし、香田さんが途中言っていたように、選手が恩を感じているクラブに不義理を働いても移籍のチャンスを活かしたいという事情はよくわかるんです。選手自身が決めた選択を外野がどうこう言えないとわきまえてもいるんです。でもそんなに資金が潤沢でも選手層が厚い訳でもないクラブで、若手が活躍しだしたと思ったら出て行ってしまう例を何度も目にするのは正直さみしくってですね…

椿に関しても、挫折があったけれども、あったからこそ余計にもっと大きな舞台で活躍できる機会があればチャレンジしてほしいと思ってはいました。でも移籍金を払ってでも獲得したいと思われるような選手になるための成長をETUでしたいと言いきってくれた時、思ってもみないほどうれしくなってしまったんですよね。むずかしいかもしれないけど、そうであったらいいなと思う希望を見られることはフィクションの力ですね。

「恩あるクラブに恩を返す」「一選手として成長を続ける」「サポーターに愛され続ける」全部を叶えるとか、なんて大それた希望だろう。しかもあの普段は気弱な椿が!でも椿がそういう選手であることも、それができることも、読者なら知ってるんですよね。それがうれしい。ずっと追ってきた選手、ここまでになってくれたんだぞって。

 

 

第60巻の次巻予告で「パッカくんに角が生えてることしかわからん」って書いたんですが生えてましたね。鬼でしたね。しかも有能な鬼。今更だけど何者なんだパッカくん…

 

なんかゆるい…?って動揺したのはパッカくんの件だけじゃなくて、鹿島、あなたのとこもですよ。アイルトンと五味、結構前から出てたけどそんな一面あったとは。ていうかここで出す?この大一番の前に?特に五味は村越さんとの因縁を「渋キャプテンvs渋元キャプテン対決だ…!」と楽しみにしていただけにだいぶイメージ変更余儀なくされたよ。人情家め。まあ村越さんも初期の映像笑われてたりしてましたが。あれは尊敬する人の過去映像見てファンがよろこんでるようなものだからショック受けなくていいのよ?

真剣勝負だけどウェットになりすぎないのもジャイキリの味かもしれません。とはいえ、ロッカールームにベンチ外のメンバーまで集まって円陣組む場面はストレートにグッと来てしまいました。

さあいよいよ試合開始!でも「やっておしまい」ってなに?なにが起こってるの?