さわやかサバイバー

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バンオウ-盤王- 第3巻感想

twitterに上げたバンオウ-盤王-の感想をまとめたものです。

 

続きからネタバレ感想

 

第16話 あきらめない

  一度落ちかけた相手が底力を発揮するときに回想シーンが入る展開自体は定番なのに、ちゃんと心打たれる場面になるのがすごいのよ…
初戦の相手だから長々と語らず「環境を整えるために親が引っ越しまでしてくれた」という具体的なエピソードで短くも印象残して行くのがあざやか。

相手を下げることなく主人公の力を発揮させてくれるから読後感がすがすがしい。

プロとなるにふさわしい粘りを見せる人だった、好機を見逃さない目も持っていた。その上で集中力を取り戻した主人公があきらめず戦い続けたことで勝利をたぐりよせた、というバランスが絶妙ですよね。

月山さんのとてつもない積み重ねは第1回から描かれているからちゃんと発揮できれば相当な力だというのは納得できますし。うわついてたと気づくこと、それ自体がその場に臨まないとできないもんな…

 

この一勝を通じて大会を「憧れの場所」から「戦いの場所」にすることができた感じですね。棋士のサイン欲しがったりしてたのはほほえましくて好きな場面ですが、ただ憧れるだけの存在から敬意を持ちつつ真剣勝負する相手と変わったのが最期の深々とした礼にも見られてとてもいい。

 

第17話 SKAY

 プロの背負うものを目の当たりにして圧倒されたんだろうか。自分の背負うものだって大きい、とどこか自分で自分に言い聞かせているような印象を受けました。これも実戦経験したからこそですね。
あと「面白味が足りない」って面白味のかたまりが言うの反則だと思う。

これまで戦う機会がなかったからこそ、ただ憧れていられたプロ相手と真剣勝負をすることになってプロを負かすことの重さがのしかかって来たんじゃないでしょうか。これまでのどんな戦いも楽しさやうれしさが勝っていたけど、これからもそんなふうに戦えるんだろうか。

できればそれも引き受けての楽しさを見つけていってほしいのですが…単体でも印象深かった町野さんとの対局がまた色を変えて効いてくるのがうまい。

 

将棋歴はおよばないけど「戦う者」としての嗅覚でアンナちゃんが月山さんの揺らぎを感じ取ったのがさすが、と思ったんですが、夏から冬になるまで鈴木放って将棋の腕磨いてて教団からなにも言われなかったの?ハンターってなんなの?

月山さんの正体がバレたら厄介なことになるのは変わりないのに、将棋まじめに勉強したりハヤトのこと一人前のライバルと認めたりどんどんいい人の面が明らかになって心情が「月山さん逃げてー!」からいつの間にか「月山さん仲間にしたげてー!」にスライドさせられてんですよ。

 

中溝さんと天草くんの対局ってメタな見方をすれば天草くんのリベンジ回への準備だと思うんです。繋ぎというか谷の展開なはずなんですよ。なんでこんなキャラクターいきいきエピソードになるかなあ!娘ちゃん大好きパパな中溝さんがよすぎて直前までなにやってたか忘れそうだよ!

リベンジがどのタイミングで来るのかわからないけど、月山さんがプロを負かすことの意味を知り始めたあとに一度(ほぼ)負かされた天草くんが真剣勝負を挑むというのはどんな影響をもたらすのか、楽しみです。

 

第18話 あなたに逢いたくて

 いや対決せんのかい!と笑ったけど結果的にもっと面白そうな展開になりましたね?対局を見て月山さんの認識を変える変えない、再戦申し込む申し込まない、いろんなルートが考えられます。巡り合わせでもう一度力を見せる機会スルーされてきたけど今回準備バッチリで来たもんね?

 

バンオウ読んでて初めてヨッシャ!って声が出ましたよ。対局じゃなく日光対策万全で出かける月山さん見て。そうだ!それでいい!日傘大事!でも2月か3月でその装備なら夏はどこまでいくんだ月山さん。

 

しかし理由わからないまま憧れの棋士に試合見学されることになったら混乱するよな…天草くん来た理由教えてくれるんだろうか。いままではうかれてた、と気合入れなおしたら予想外の角度から心乱されることになるとか月山さんもついてない。

応援だか妨害だか微妙な自称友人の来襲がなくなったかと思えばこれだよ。でもごめん、読者はたぶんまた来襲することを望んでるんだ。面白いので…

 

岩本さんもいいキャラしているなあ。天草くんと話しているときが素っぽいけど、本人あんなに美しさ前面に押し出してるわりに配信見てるのが普通に将棋好きな人たちばかりなのは、みんな素をわかってて見守ってる感じでほほえましい。シャンプーなに?

 

第19話 3回戦

 主人公を指して「凡才だ」と言いきる、しかしそれが輝いて見える、そういう漫画なんだよなあバンオウは…
読者がそう感じられる積み重ねを最初からずっと丁寧にしてきてるんですよね。「もう一人の凡才」を通じてあらためてストレートに打ち込まれた回でした。

今回の対戦者光岡さん、月山さんと対照的にも類似的にも感じられる名前にしてあるのかな。

最後のページ、光岡さんの背景には緑のカーテンが、月山さんの背景には普通のカーテンが描かれているのにもグッと来ました。日の光を受けている、しかし本人は緑に遮られた影の中にいる光岡さん、公式戦のような日の当たる場所には出られなかった月山さん。二人は同じように将棋を指し続けてきた。

またここ楽しそうに指してるんですよね…賞賛の光を浴びることがなくてもずっと続けていた努力と、それだけ二人が将棋好きであることが伝わるコマ。

一足飛びに上に行ける才能はない。このまま進んでも先が見えている…と思っているところに明らかに自分と同じ側なのに自分が想像するより先を見せてくれる相手に出会ったら。私なら「自分はそこまでできない」と苦く思うかも。

バンオウはそこで光岡さんの目を輝かせるんですよね。胸がキュッとなります。なにかを好きでいつづけることや努力を続けられること、相手の優れた点を見つけられることはまばゆいのだ、とここまで辿り着いた二人を称えるように描いている。沁みる…

 

第20話 努力と才能

 前回と対をなす天才の評。将棋の才能自体においては同じ凡才同士だからこそ響きます。
好きでいられることが才能、なんて目新しくない展開なのに、辞めることはできないがモチベーションも上がらない光岡さんの内面描写が効いて閉塞感を打ち破る衝撃が伝わります。本当に見せ方がうまい…

光岡さんが限界まで努力できる人だからこそ「いやもう無理…」と思っていた壁の先を「好き」というまったく軸の違う力で突破していく人見たらそりゃあ驚くよね、という。

あきらめや敗北感もあるだろうけど、どこか爽快でありまぶしく見ていたのは自分の中の壁が壊れるのを実感したからではないでしょうか。

 

「好き」の力で壁を突破していく主人公らしさがまばゆく描かれるのと同時にその非凡さがプロを脅かす異端として警戒されていく様子にゾクゾクしました。

月山さんが純粋に「好き」を続けてこられたのは吸血鬼であるところも大きいですよね。成果が出ないまま年齢を重ねる恐怖もなければ同じ年代の仲間との競争ですりきれることもなく、生活や人間関係に縛られることもない。

もちろん公の場に出られないさみしさはありましたが、裏を返せばそれらとは無縁でいられたということ。人の輪に加われない異端として苦しんだ先で見つけた将棋という生きがい。特殊な環境で育った才能の芽がまたしても異端として目を付けられる要因になるのは皮肉です。

凡才なのに強者である理由付けのためだけかと思っていた吸血鬼設定がバックグラウンドとしてしっかり活かされて、月山さんの生き方や行動に影響を与えていくのがうれしい驚きでした。

 

プロやアマの肩書きにこだわらず、ただ勝負に向き合う天草くんもよかったです。自分の強さに自信があるから体裁気にしないでいられるんだろうな。みずみずしさと怖いものなしの勢いを感じました。
でも先に帰っちゃったから月山さんまたサインもらえないんだな…

 

第21話 オンライン

 一触即発の吸血鬼とハンターが同じ場所できわどいすれちがいをしてるのに、それぞれが月山さん大好きムーブしてるからほほえましさしか生まれてない…好き…
って、ゆるんでるところに天草くんとの再戦が!パターン刷り込んでから裏切るのうまいっすねえ。

 

鈴木と絡む時の月山さんは活きがいいな。構いたくなるのわかる。「表に出ろ」の顔すごい好き。前回ラストであんな爽やかないい笑顔してた月山さんにこんな顔させるのは鈴木だけだよ。
まあ憩いの場所にスーパーボールみたいなやつ入れたくないよね。たまに回復アイテムくれるスーパーボール。

凶悪顔で「人間となかよくなれてよかったね」とか言ってるのがおおむね言葉通りなの、やっぱり面白すぎる。ずるいやつだよ鈴木。

アンナちゃん仕事もしてた!一応追い続けてはいるんですね。すぐ将棋に行っちゃったうえに「アナタに勝つ!ハンデありで!」とか堂々と宣言してるから笑う。美しい表情とポーズ決めて言うセリフじゃないのよ。「受けて立ちます」はさらにハンデもらった側が言うことじゃないのよ。

 

賞金を渡したい月山さんに対して受け取れない先生にスッと「お金のことは今答えなくてもいいんじゃないかな」と言えるミサキちゃんがとてもよかった。お互いを思ってのことなんだから一番大事なのは気持ちでしょ、と重荷を取ってくれる言葉でしたね。

目を引くド派手な表現とは対極の、見慣れたシンプルな言葉で登場人物たちの心情をすくい上げて感情移入させていく様子にバンオウのうまさをしみじみ感じます。腕が抜群なので少ない食材でめちゃくちゃおいしい料理を作ってしまうみたいな。

それはそれとしてミサキちゃん「くれるならもらっとこうよ!」と言えるちゃっかりなところも好き。

 

何度もすれ違ったあげく試合で直接対決しましょうってなった相手とオンラインで先に対戦することになるとは思わないじゃない!?でもいざ対戦となればふだんの柔和な顔つきから猛禽類みたいな眼になって攻めてくる天草くんの闘志、ゾワゾワします。

いままで「謎の強者」だった月山さんが今度は立場が逆転して「謎の強者」から強襲されている構図も面白い。大会が始まればそればかりになるかと思ったら、いろんな軸で話が展開していくし、それぞれがどう関わり合っていくのか読めなくて楽しいー!

 

第22話  GEN vs SKAY

 戦況のみを通じ相手に迫り弱点を暴く。盤面が詳しく描かれなくても将棋を通じてドラマが動く「将棋漫画」になってるのが毎回すごい…「自分」を消そうとする戦いのなかでかえって天草くんの勝利への執念が際立ってくるのもゾクゾクしました。

ボルテージ高まったところに初戦の見開きリフレインですよ!相手が月山さんだとわかっていて過去の対局も調べた天草くんが有利かと思いきや、月山さんも相手の正体に近づいたりでいい勝負したからこそリベンジの衝撃が!

 

面白いのが月山さんがイレギュラーに弱いということ。無名の人間が成り上がる物語、とくにチームスポーツものだったりするとオーソドックスな戦い方では強豪にかなわないから奇策で勝つ筋書きが多いように思います。そうでなくてもこれまでにない新しい発想ができるタイプが主人公じゃないですか。

長い年月を生きてきた、しかし凡才という設定が膨大なデータベースを土台としてオーソドックスな戦いには強いがイレギュラーに弱い、あまり類を見ない主人公像になっているのが独特です。

逆に天草くんはデータを基にしてそれまでにない戦い方もできる、発想の飛躍も含めて地力と描かれています。研究をおこたらず、その上で柔軟性のある戦いができ、勝利への執念が強くこの先まだまだ伸びる相手。いやどうやって勝つのよ。

温故知新と言うように知識があってこそ新しいものを生み出せるのかもしれませんが、いままでやってこなかったのにこの大会中に生み出せるようになれといっても難しいんじゃないでしょうか。

対策される側になったことがないから気付けなかった弱点だよなあ…吸血鬼設定、まだこんな活かし方があったんだって驚かされます。しかももう次の対局だし。実戦で対策への対策してくつもりなの月山さん?ひぇーヒリヒリする…

 

第23話 ふたりの新鋭

 主人公「マズイ」医者「マズイ」主「マズイ」医「マズイ」突然の鈴木「お兄ちゃんだよ!!」
吸血鬼バレの危機という、おいしいエピソードが爆速で終わったんですが…?この出し惜しみのなさと前代未聞の解決方法どうかしてるよ大好き。

いやもう緩急が最高。お互い真面目にやってるからこそ別方向の「マズイ」がおかしくって、応酬で細かく刻んだ直後に鈴木のバァァンで風穴開いたかと思ったら記憶喪失のくだりでまたじわじわと外堀埋めてからのしめやかなお兄ちゃん。

月山さんには悪いけどこの後の虚無顔何度見ても笑う。大丈夫なんも失ってないよ。読者を和ましてくれただけだよ。

対策され始めて、準決勝相手の粘りが倒れるような事態を招いた、という今後の厳しい道のりを示すできごとのはずなんですが、かすんじゃうよあんなことされたら…決勝戦の相手のお披露目もあったのに…

体力面は(歪んだ楽しみ方してる)鈴木の協力もあり、なんとかなりそうですが、対局中にどうやって新しい戦い方を見つけるかという課題はこれからみたいです。って次6組の決勝だよ。決勝で本格的に乗り越えるつもりなの?燃える展開だ。

 

第24話 決戦

 吸血鬼設定まだこんな切り口があったか…!本当に見せ方が多彩。
最年長プロの存在は長い生の伴走者のように支えにも慰めにもなってくれていたでしょう。月山さんが勝負の場に上がることで年下の彼が「変わる時代に食らいつき続ける先達」と変化するのが熱い!

ていうか決勝戦の相手星谷くんじゃないのかよー!前回いかにもな初登場だったし時代の最先端を行く若手は積み重ねで戦う月山さんの相手にふさわしいと思ってたのでまんまと驚かされました。

でもベテラン相手に積み重ねながら変化し生き残るすべを学べるのは月山さんにとって得るものが大きいと思うので納得の展開なんですよね。予想を裏切りながらも納得ができるって、やっぱり話作りが上手い…

ただ今回選んだ相手の得意な戦い方を封じる作戦がうまくいくか、月山さんに向いているかはまだわからないからなー!ドキドキする。伊津さんもそういうのは山ほど相手にしてきてるだろうし。

 

アンナちゃんの成長っぷりがすごい。これこの先ハンターとして戦うのか将棋のライバルとして戦うのかわかんなくなってきたんでは。

 

宮内さん再登場うれしい。この漫画サブキャラももれなく大好きになってしまうのでみんなどんどん再登場してほしい。ボリュームえらいことになりそうだけど。

元気なお父さんと穏やかな宮内さんはタイプが全然違うけど仲良さそうでよかった。プロとアマで違う道を選んだわだかまりとかもなさそう。むしろ息子が笑顔で振り返るようないい勝負ができたことをお父さん察してうれしそうにしてる…やだ泣いちゃう…

 

 

<おまけ>

記事アップ時には単行本がまだ手元になく確認できてないのですが、目次を見るかぎり番外編の収録はないっぽいですかね?

目次にはないけど巻末に収録されてましたね!よかった。せっかくなのでリンクは残しておきます。

 

番外編はジャンププラスでいつでも無料配信されているようなので、よければこちらも読んでみてください。リンクと感想は↓に。

 

shonenjumpplus.com

 

番外編

 はーパパラッチねー、うさんくささも鈴木らしいんじゃないのと思ってたら、相手にスキャンダルがなければまともな良い記事書けちゃうとか、お前…ずるいぞ…!

それがちゃんと評価されるのも「いい人づくし」なこの作品らしいんだけど、スキャンダルなしの記事でもいけると踏んで実際その通りなの、鈴木の世渡りのうまさがうかがえますね。人がよすぎて好かれているけど栄光とか利益とは縁遠い生き方をしている月山さんと好対照。