さわやかサバイバー

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灼熱カバディ 単行本第25巻感想

twitterに上げた灼熱カバディの感想をまとめたものです。

  

続きから第25巻ネタバレ感想

 

第235話(前編)

 神畑も若菜も宵越もとてもいい言葉をくれたけど、君嶋の憑き物を落としたのは他でもない彼自身が体にしみ込ませた英峰の守備だというのがすごくいい。それはきっと誰からもたらされるものよりも一番納得できる答えだと思います。

星海に勝てなかったことですべてが無駄になってしまったかのように感じていたけれども、その過去そのものの厚みが「そんなやわな積み重ねじゃない」と君嶋自身に言ってくれたように感じました。

神畑を、英峰を勝たせるために一番いい方法をずっと考えて実践してきた結果なんだものね。一番力を発揮できる、一番連携できる、真っ先に立ち帰るべき地点はそこなんだ。

強い相手がいることは糧になる、という神畑の志は気高いけど、勝負ごとにおいてそれは理想で勝てなきゃ意味ないというのも正直なところあるでしょう。だからこそ君嶋はここまで来てしまったんですもんね。

そこで君嶋を追い詰められて道を間違えてしまった人にせず、彼の揺らぎをちゃんと描いて読者の心が彼から離れないようにして、立ち直る過程でも彼自身の力でそうさせてくれた武蔵野先生がすごい。

バランス感覚もなんだけど、本当に登場人物ひとりひとりを大切にしてくれてると感じます。ただ持ち上げたりいいとこばかりを描くのではなくてその人の立場や力量だからこそ苦しむ場面も描いて、そこを越えようとする意志を尊重してくれている。

 

冒頭の人見ちゃんと宵越の場面もそうでしたね。4点差には何も言わず、試合を持たせてくれた働きを評価する宵越マジ良い越。まだまだ力を付けないといけないことは人見ちゃん自身の表情で伝わってくる。だけどこの時点で宵越が戻ってくるまで試合を壊さなかったことは評価されるべき動きなんですよね。

神畑と英峰への態度も含め、スポーツ歴や実力にかかわらず、真剣に挑む選手を尊敬できる宵越の姿勢は第1話から一貫してすごく好きなところです。

 

第235話(後編)

 連携の精度も若菜の得意な領域も、英峰の強みを理解した上でアイデアを次々と出して突破していく宵越が本当にかっこいい。攻撃に入る前の神畑からの伝言と自分の宣言を身をもって示してる。

英峰の勝利を信じる神畑の言葉もそれを越えると言った自分の言葉もプレーに反映させてるんですよね。相手の能力を素直に認められるところ、その上で絶対に勝ちたい負けず嫌いなところ、両方とも第1話から描かれてきた宵越の長所ですが、この展開であらためて輝いてます。

イレギュラーが重なった状況でこれだけできるのも競技は違えどトッププレーヤーだった経験に裏打ちされている気がします。単に主人公だから活躍するってことはなく、ちゃんと理由があるんですよね。

 

君嶋、今回で禊は済んだと思うのですが、一人残ったこの状況でこれから何が描かれるのでしょうか。あやまちを回避できた、これまでの自分たちのやり方が間違ってなかったとわかった、それ以上になにかよい手ごたえを感じられるようなことがあってほしいなと思います。

でもそうしたら病院であんな暗い顔してないのかな…どうなんだ、どうなるんだ!

 

第236話(前編)

 君嶋、そつのなさから周囲の様子を細かく察知できるんだろうなとは思っていたけど、普段は結構軽い感じだったじゃん。実は割り切れなくて肩入れしてしまう不器用なタイプだったというの、そんなのむしろ好きになるじゃん…

いやまあこうなってる時点で大体わかってはいましたけど!でも相手が神畑じゃないですか。あんな執念と情熱そばで見てたら肩入れするタイプじゃなくても肩入れしてしまうじゃないですか。全方位そうだったとは…

相手の気持ちがわかってしまうからこそ、自分の思いは一歩引き気味で、それがそつのなさに見えていたのかな、とも若菜との場面で感じました。そんな君嶋が突っ走ってしまうほどだった、ってやっぱり今回の事態とんでもねえわ。

その人の性格や特性だからこそ起こってしまった問題をドラマの起伏として描きつつ、それを短所で終わらせずにその人だからこそ得られたものがある、と描いてくれる灼カバが好きだ…普段ならやらない攻撃手でも君嶋だからこそできる戦い方があるのだし、英峰の仲間が応援する様子からも君嶋がこれまで得てきた信頼の厚さを感じます。

片桐のエピソードとかもそうだった印象。

 

第236話(後編)

 君嶋、あやまちを回避できたという以上によい手ごたえを感じてほしいと以前書いたんですが、武蔵野先生ちゃんと描いてくれたよ…さすが…しかもそれは英峰の手ごたえでもあり能京の手ごたえでもある。互いを高めあうライバルの最高な姿で締めてくれました。

差しはさまれる合宿所のカットが無音なのに饒舌でね…そこで感じた悔しさやそこからの努力の積み重ねを読者は知ってるから風景しか描かれてなくても感情がどんどん湧きあがる。エピソードをちゃんと積み上げてきた長期連載の強みですよね。

宵越と畦道だけでなく、関と人見ちゃんの回想場面が挟まれていたのがうれしい。あとから入部した3人、合宿帰りの電車で「なにもできなかった」って落ち込んでたんですもんね。悔しさのぶん成長度合いは宵越や畦道にも負けないくらいだろうな。

 

関が見つめる試合後の神畑の顔がどこか幼いすねたようなのも妙にうれしくって。どこまでも追いかけるだけの存在ではなくて、負けて悔しがれる、対等に近い距離になったのかなと思いました。高校生とは思えないくらい立派だったけどね神畑

あとすぐに退院できるくらいでよかった!よかったー!

 

第237話

 やったーバカだー!リアクション要員として頭角を現し始めた六弦はもちろん、登場人物みんなの反応に笑ったんですがなんか「武蔵野くんの楽しかったことつめ込んだのかな?」とうかがえるような感じもほほえましかったです。先生サウナ好きだなー。英峰対星海戦でも出てきたしなー。

 

私、六弦に対して抱いてたのはは尊敬多めの真面目寄りの「好き」だったんですよ。今ね、ちょっととまどってる。新境地そっち行くんだ…?いいんじゃない需要は多いと思うンッフ…!なんでバナナの評価基準に「かわいさ」を入れてんだお前がかわいいよ。

 

王者との試合を前にしたそれどころじゃない時に宵越パパ来ちゃったー!親子の確執来ちゃったー!いまちょっと手いっぱいなんでお引き取りいただけねえかな!?

と思ったんですが、考えたら宵越の本気度を知ってもらうにはこれ以上ない機会かもしれない。「お遊びかどうかは試合を見てから決めていただけないでしょうか」的展開が来るのかも。しかし所詮マイナー競技と侮る態度が宵越とそっくりじゃないすか。親子ー。

 

第238話

 宵越は極端な例だけど、いまの日本の若者全体が失敗できない寄り道できない状況や思考にならざるを得ない傾向がありますよね。心が湧き立つものに没頭して得られる心の豊かさってあると思うし、宵越はそれに出会えてよかったな…

「そうしたい」と道を変えた時にお母さんや竹中監督のように彼を支えてくれる大人がまわりにいてくれたのもうれしかったです。だけどお父さんの「君はさっきからどの立場の人間なんだ」が正論すぎて。確かにな!竹中監督カバディ部の監督ですらないもんな!

でもこのサッカー部の監督がこの学校の先生の中で一番宵越の成長見てきた人なんですよお父さん。いやあらためて考えると「なんでサッカー部の監督がその立ち位置なんだよ」だけども。

 

お父さんは宵越が才能を活かした華々しい道から外れたことと同時に自分とともに歩んでいた道から外れてしまったことを悲しんでいるのかもしれないなと思いました。まるでサッカーの経験があやまちだったと言われているような気になっているのかも。

でも灼カバという作品がどんな過去でも糧になると描いているように、宵越もサッカーで鍛えた身体能力や思考方法が独自の強みになっているので彼の中で活かされている過去とそれが輝くいまの両方を認めてあげてほしいです。

正直、似たもの親子だって描かれてるからあんまり心配はしてないんですけどね。お母さんに弱いのも一緒なんだフフ。

 

第239話

 お父さんを納得させるためにもヨッシャやるぞ!と意気込んでいくのかと思ったら、能京に入ったからこそ得られたものを宵越が再確認していく穏やかな回で。部活以外にも関係が広がる、お母さんが望んだような人間らしい生き方ができるようになったんだなと…

成長も感じられたし、宵越よかったねえとホロリと来たすごくいい回なんですけど、なんですけど、ラストバトル前のしんみり回みたいな雰囲気も感じてしまって…

絶対王者との対戦前に自分の土台となっているものを振り返る回だと思っておけばいいんですよね。お父さんに反抗して、部活以外にもクラスメイトや上級生とも交流が広がった宵越と、お父さんと協力しながらカバディ一本で進む不破を対比させるエピソードでもあったのかなと。

もちろん単純に宵越が正しくて不破が間違い、とは描かれないでしょうが。英峰戦や単行本でのおまけでうかがえた不破の内面が、能京対星海戦でさらに描かれてほしいなと思います。彼についてはまだ掴みきれてないので。

 

第240話

 1ページ目からフルスロットルで筋肉成分をねじ込むんじゃない。ページをまたいでねじ込むんじゃない。その上で変わりたいという水澄がすでに変わっていることを昔の友達の目線通して描くいい話にするんじゃないよもう…

伊達のお父さん、いい人ではあったけど筋肉言語による解説要員の面が大きかったからネタキャラ寄りの立ち位置だったのに急に頼れる大人になるじゃん。素敵…相手が何を目指してて現在どの地点にいるのか確認しつつ進めてくれるの、いい指導者だ。

「多分一番になっても何も変わらない」と現実を教えつつも、応援してくれる人が増える、その人たちのためにも勝ちたくなる、と周囲の人を巻き込んだ大きな人間になれる道を示してくれる背中の押しかたも人生の先達という感じ。

水澄は変わりたいと思う前が「自分一人でなんでもできると思ってた、だけどつまらない毎日だった」という人だから、「周囲の人のためにも」で世界が広がっていくのは大きな変化ですよね。

王城部長とのエピソードや合同合宿で折に触れて変わってきていることは描かれてきましたが、今回は昔の友達との会話や一番になったその先が示されたことでこれまで以上に長いスパンでの「水澄のこれまでとこれから」が描かれていた気がします。

そんな水澄を大きく変える道の途上にごく自然体で隣にいてくれて、「みてーな」に「やるか」と打てば響く返事をしてくれる伊達との関係もめちゃくちゃいいよねえ、と再確認した回でした。

 

第241話(前編)

 小さい頃から要領も頭の回転もよかったんだ井浦。でもそのまま効率第一で世の中に認められる道を選んでいたらたぶんこんなに魅力的な人間になってなかったんだろうなってところは宵越と似てる気がします。

カバディと出会って自分は天才ではないと思い知って才能の差を埋めるために理論や知識を学んでいったのではなくて、もともと頭のいい子がカバディに出会ったんですね。

前編に描かれているような効率重視の面だけ見るとそんな子はカバディ選ばなそうなんですが、そんな俺を変える衝撃の出会いだった、ってだけではないような。ヘラヘラしてるのが腹立つというのも完璧主義なのも、舐められたらおしまいだ、みたいなコンプレックスの裏返しのように見えます。

そんな子がなぜどうひっくり返っても敵わないような情熱を持ってる人と同じ道を歩もうと決めたんだろう。常に比べられるのは明らかなのに。後編楽しみです。

 

第241話(後編)

 カバディを通して深い友情を築いたと自覚しているがゆえに目標を達成したら、引退したら、きっと関係が変わるだろうとお互いわかっているのが切ない…その限られた結びつきでこそ生まれたまぶしさと表裏一体だものね…

読者的には「二人はずっと大親友だよぉ!」と言いたいところだけど、当事者の二人にしかわからないものはあるし、そういう関係を築いた二人だから応援したくなるし好きなのですよね。

水澄と伊達の「いつの間にか普通のダチになったじゃん」とも違うんだな、と噛みしめています。まったく性格の違う二人で、一方がもう一方を引き入れた、とか共通点も多いんですけどね。

 

カバディがすべての王城部長の情熱はインパクト大きくて、実際それが井浦をはじめみんなを引っ張っているのだけど、「慶を変えてしまったからにはなにがなんでも勝って終わらせる」は王城部長がどれだけ井浦の存在を大きく受け止めているのかわかって熱いですね…

最初は王城くん結構したたかに引き入れてたからギャップも含めてね。ふだんホニャホニャしてるのにカバディのこととなったらホニャホニャ顔のままで的確に負けず嫌いのツボ突いていく王城くん好きだわ。

 

第242話(前編)

 宵越にはいい師匠もいいライバルもいるけど、ターニングポイントには畦道がいるのがうれしいじゃないですか。この二人の出会いから始まったから、やっぱりここに戻ってくるんですね。最初宵越を引き込んだ畦道が今度はやめさせまいとする構図、熱い。

宵越をよく見てて誰よりも先に変化に気付くのも畦道なんだよなー。畦道が宵越本人にも伝えずに決心するの、それだけ思いの強さを感じさせます。なにげないふうを装うのもここまで続いた「いつも」を途切れさせまいとするみたいで。

 

つーか神畑試合出てんじゃないすか!いや退院はしたのは見たけどあんなドラマチックに退場したから復帰しないんだと思い込んでました。三位決定戦勝つぞ!的な意気込みも仲間に対して言ってるのかと。いやうれしいよ!元気になってよかったよ!

しかしこうなったら奥武対英峰戦しっかり見たいな。覚醒したヴィハーンを英峰の守備は捕まえられ続けるのかとか山田は英峰の攻撃に対してなにかアイデア用意してるのかとか気になる。見たい…

 

第242話(後編)

 あなたの水澄はどの(立場の)水澄?モテてるなー水澄!本人の意見聞いてもらえないけど!星海の残りメンバーの顔見せ回でしたが、これから戦う強敵!というより「水澄と伊達、同じ穴の狢に会う」とかサブタイ付きそうな回で笑いました。

ゆかいな2年生ズに対して狸ポジションの人たちの会話ギスギスしてるわぁ…冴木はまだ深掘りされるんじゃないかと勝手に思ってて、詐欺師的な印象も変わるんじゃないかと期待してるんですがどうなるかな?

 

第243話(前編)

 不破親子の目指す道も王城親子の目指す道も競技の発展にはどちらも必要で、お互いわかってて、だからこそ自分の道は譲れないと強く思っているんでしょうね。

王城部長が全力で潰すと言われて満面の笑みなのも、仲間が自分と試合をしたら競技を辞めていたかもしれないと感じて少し揺らいでいた不破があらためて自分の道を迷わず進むことを示してくれたからなんだと思います。

でもそうさせたのは王城部長自身なのよ…それもまた競技と仲間に対するでっかい愛じゃないのよ…

 

第243話(後編)

 宵越にもお父さんにも決断を変えるよう強制はせず、本人の意思を尊重して、その上で宵越がどれだけ変わったかということや、それを知っている仲間がいることをきちんと伝える畦道、最高の相棒。

畦道の優しいところや芯の強さが表れてますよね。そういう仲間ができたことを知って、なにも言わないけどお母さんうれしそうな顔してるんですよね。だろうなあ、うれしいよねこれは。

 

応援席も歴代メンバー勢揃いで楽しい。高谷ファンクラブの横断幕が能京応援メインになってる!もうほとんど関係ないのに!いい子たちだ。

「サッカーであれば…」って言ったそばから別競技をしてる息子を熱烈応援するサッカー部見て「こいつら…」ってなる気持ちはわかりますがねお父さん、最初からそいつらそうなんですよ。もう古参なんですよ。

閉会式が控えているからライバルたちも制服で。開会式を思い出すと感慨深いですね。もう何年も前のことのようだ。何年も前だったわ。普段の感じからすると紅葉と奏和がちょっと意外。直接対決した同士はさすがに気まずいかー。そのなかでにこやかに挨拶してるヒロと高谷さすがのコミュ力