さわやかサバイバー

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バンオウ-盤王- 第2巻感想

twitterに上げたバンオウ-盤王-の感想をまとめたものです。感想は第8話から。

 

続きからネタバレ感想

 

第8話 天才塩田

 バンオウ、試合内容よりも将棋という競技への関わり方を通した人間ドラマ(主人公吸血鬼だけど)がメインなのかな。これまでは嫌味であっても将棋には真摯なキャラばかりだったから、一見熱がないように見える宮内さんをどう描くのか楽しみ。

ハヤトへの仕打ちに対する意趣返しの意図もあったんだろうけど、月山さん、あの埼玉代表氏とも結構楽しんで勝負してたんじゃない?って感じだったし、これまで試合相手に嫌悪感抱いているような描写はなかったですよね。

今回も冷静な顔で「俺と指せばわかる」だけで、心情は語られない。自分自身が「望んだとおりに生きられない」苦しさをよく知っているので、表面的にわかることだけで人を判断しそうにないんですよね。これまでのいい人っぷりからもそれは月山さんらしくない。

一発キャラかと思いきや、有限の時間で道を究めようとする厳しさときらめきを見せてくれた塩田さんのエピソードを受けての対戦が「嫌なやつやっつけて爽快」では終わらないんじゃないかと期待してます。
それにしても初登場の一話だけで好感が持てて印象に残るキャラが描けるのは本当に上手い…

 

鈴木やハンターさんも吸血鬼方面だけでなく将棋方面にもかかわっていくのかな。とくに鈴木は記者という職業だし、広報的に動くとかいろいろできそうですよね。いまは高みの人間観察してるだけだけど。

「お年寄りがずいぶんとはしゃいでまぁ」は笑った。お前のほうが年上だしはしゃいでんだろがよ!

 

第9話 僕の幸せ

 なまじ強いだけに勝負事で勝ち負けよりも楽しむことを優先させたいというのははたから見れば嫌味に思えるけど、お父さんと楽しく打っていた時間が原点だとわかればその喜びを取り戻してほしくなる…って場面で誰より楽しむことに長けた主人公がバーン!と来るから期待値上がるしかねえじゃねえのよ!

たった一話で好きにさせるのが上手すぎるのよ…そして盛り上げ方も上手いのよ…

 

宮内さんは将棋を通して相手と交流できることが何よりも楽しかったのではないかな。しかし強くなるにつれて勝ち負けのほうが重要視されるようになって、「誰とやっても同じ」ことに心が削れていってしまったんだろうな。

これで月山さんがなんの屈託もなく「将棋楽しいーッ!」ってキャラなら読者も宮内さんも「お前はそうだろうけど」って冷めてしまうところを、前回の塩田さんとの勝負で月山さんが自分にはできない生き方をうらやむ場面があるのが効いてくるんですよね。

自分にできない生き方への羨望、こんなのは自分だけだろうという孤独感、根底にある純粋に将棋が好きだという気持ち、ふたりの間に共通項があるから通じ合える期待が高まります。冒頭の回想シーンで月山さんに宮内さんは将棋が好きな人だ、と語らせているのも下ごしらえになってる。

盤面が詳しく描かれなくてもたしかに将棋がドラマの中心となってるからしっかり満足感があるんですよね。

 

唐突ですが細かすぎるバンオウの好きなとこ:
「わかる」「とき」「わけ」みたいに漢字がひらいているとこ。

 

第10話 楽しい将棋の時間

 互いが互いを高めあう、これ私が最高に好きな展開ですやん…
その熱い展開の中で勝敗を越えた勝負の楽しさを引き出す主人公の魅力を再確認したうえで、プロ相手にそれだけで戦えるのかというこれからの課題も同時に提示してるのが上手いよねえ。

重圧や研鑽の積み重ね、プロが背負っているものは将棋の歴史そのもの、と長い歴史を持つ将棋ならではの壁の厚さが出てきたのにも盛り上がりました。人間ドラマが最初から素晴らしかっただけに、この題材ならではの強みが加われば最強だなと思っていたのですが、そうなって来ちゃった感じ?

しかもそれで一見色物要素にも思える吸血鬼設定がまた味わいを深めるんですよね。長寿だけど表舞台には出られない化物。将棋の歴史をそばでずっと見ていながら決して流れには加われなかった存在がどこまで牙を立てられるのか。

 

熱いキャラはそのままに、気持ちが切れかけた宮内さんのフォローをさらっとしたりして観察力の鋭さや思いやりの深さとか好感度どんどん加点していく塩田さんのキャラ造形も巧みで。登場時の印象だと今回去り際の決意も大声で宣言していきそうじゃないですか。でもそうしないんだよなー!

対局した二人をたたえ、自分の実力を謙虚に認め、再起を誓う。慎み深い意外性を残して行くから忘れられなくなりそうです。

 

宮内さんには昔のような気持を取り戻してほしいけど、それはそれとしてハイライトなし目のデザインもいいなって正直思ってましたスンマセン!今回読んだらもうそんなこと言えないわ。これからはキラキラした顔でまた将棋と向き合っててほしい。

 

第11話 リザルト

 誰ぇ!?なんでぇ!?そっちでぇ!?
すごいぞバンオウ、予想を外していくけど期待は外さない。これまでの積み重ねが活かされた上で思いもよらない展開になっていく、いい裏切り方なんですよね。
ひとネタ落ち着いたころにちょうどよく次のネタが来るもんだからずっと笑ってた。

ひどいイタズラだと思いきや鈴木の言い分を聞けばまあ一理ある…けどイタズラかどうか微妙なラインなのは鈴木らしいし、バトル要員かと思われたハンターさんが鈴木がもらした一言から将棋ルートに入っていくのも「そう来たかー!」だし、これまでを繋げた上での飛躍のさせ方がうまい。

先生とのピュアな友情をオチの前振りにするのずるいよ(好き)

 

第12話 将棋はじめました

 和解の芽だかなんだかわからないものがニョキニョキと育っていく様子を読者は見守るしかないのであった…
展開がはえーのよ!危険人物だったおねえさんがあっという間にちょっとアレな将棋仲間になっちゃうとは思わないじゃないのよ!好き。

以前ハンターさんは文化的なものに触れることができない環境なのかな…と想像ふくらませて勝手にしんみりしちゃってたんだけど、単に将棋を知らないだけだったし、日常生活では案外常識あったし、自発的に将棋にハマっていくしで、この人もまたホンワカ世界の住人だった。

帰り道で「かっこいい打ち方」の練習してるの超かわいい。しかもハンターさんの上層部もなんだかゆるい。初登場でもうゆるい。なんのために吸血鬼迫害してるの?君らも早く染まっちゃいなよ大歓迎だよ。

 

第13話 火蓋を切る

 吸血鬼とハンターが至近距離で向き合ってなにもおこらないはずが…なんもおこらんかったわ。いい試合して帰ってったわ。マジで?
この二人が出会ってまさか将棋方面から「お前を倒すのは私だ」宣言が出るとは思わないじゃん。毎度気持ちよく予想を裏切ってくれます。

展開としてはコメディだけど、物理的に戦い合うのではなく将棋の世界で切磋琢磨し合う仲間になれる可能性を見せてくれました。この優しい世界ではそちらのほうがふさわしいし、そうなってほしいですよね。

 

第14話 揺るがない男

 主人公が正真正銘の化物だから人間側で対峙する者にもなにかしらの化物じみた力を持たせるのは納得ですが、主人公も含めみんな完全無欠ではないのがいいですよね。長寿だけど凡才とか怪力だけど抜けてるとか強いけど全勝するわけではないとか。だから勝負がどう転ぶかわからない。

ハンターさんことアンナちゃんまわりとか物理バトルになるのかと思ったら将棋の勝負に行っちゃうし。鈴木とはバトルしたけど。予想つかなくて面白いです。しかも欠点とは感じさせずに愛すべきポイントにしてしまうから登場人物みんな好きになってしまう。

 

新堂さん、以前天草くんに普及活動もめんどくさがらずにしなさいと諭していたし、ふだんは周りのことも気遣える人なんでしょうね。そんな人だから今回の異様な集中力が際立ちます。アクの強いモノローグ連発していた紀州さんがとっさに注意喚起して周囲の人かばっていたのと対照的。

(すんません、段位や称号覚えきれないから「さん」とか「くん」で行かせてもらいます)

紀州さんをただの引き立て役ではなく、新堂さんの強さの源を冷静に判断し再起を誓ういいライバルとして締めたのもとてもいい。どの登場人物も出番の長さにかかわらず厚みのある印象残してくれます。

 

第15話 デビュー戦

 吸血鬼だからこそ人間には不可能な年月の研鑽ができるけど、吸血鬼だからこそ表舞台での真剣勝負の経験値を積むことができなかった…って設定がちゃんと主人公のチャンスとピンチに繋がっているのうまいなあ!場慣れってその場で経験重ねることでしかできないもんな…

ネットでの対戦やエキシビジョンとはわけが違いますもんね。プロのプレッシャーを真正面から受けながら戦って消耗しないはずがない。

前回の化物じみた集中力だけど全勝はしない新堂さんの描写も含め、強さのコントロールが絶妙ですよね。広大なデータベースを持っているけど、それだけでは戦えない戦場に踏み込んだ主人公に「うわ~どうなってしまうの~!?」って思ってしまいますよ。

 

叶うとは思わなかった夢の場所に立つ感慨を噛みしめる前半の描写は読者にもじんわりよろこびが染み込むようでした。その夢を現実にしていく厳しさを見せる後半とのギャップでまたどちらも引き立ちます。

 

冒頭に「ただし さむい」(さむい、のひらがな表記萌え)でフフっとさせたり、試合の流ればかりになりそうなところに「なんもわからん鈴木」が挟まれたり、肩の力の抜きどころもいい塩梅で配置されてるんですよね。読むテンポのコントロールもうまいんだわ…