さわやかサバイバー

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新九郎、奔る! 第13集感想

新九郎、奔る!(ゆうきまさみ 小学館)の第13集感想です。

 

 ついに就職!と目にしていたのでめでたいじゃないのと思っていたら、内定はもらったものの自宅待機みたいな期間が長いし、出勤してみれば勤め先は不穏な空気が漂ってるし、で苦笑しました。北条早雲の物語だと知らされていなければ「この人本当に大成するの?」と疑いそうな人生歩んでる新九郎ですが、腐らずその時自分のできることをしている地道なところが新九郎らしくて好きだなあと思ったり。

とはいえ、第1話、38歳の新九郎が関わっていた人物名が出た時は盛り上がりました。ちゃんと繋がるんだ!(やっぱり疑ってる?)

 

続きからネタバレ感想

 

 第13集を読んで思ったのは「新九郎、意外とリアリストと相性いいのでは?」ということでした。めちゃくちゃ悪口言われても一休の知名度利用して金集めをするたくましさを持つ春浦宗煕とはいい師弟関係を築けているようでしたし、いとこ盛頼に借金の相談をした際には財テク上手な盛頼が驚くような大胆な申し出してましたし。

新九郎は筋とか順序とかにうるさいですが、頭が固い訳ではないと思います。以前盛頼が正攻法一辺倒の新九郎を心配し、妻子を持てば家名を存続させるため汚い手も使うほど必死になる、だからお前も妻を持ったらどうだ、と話していましたね。けれどいまだって長年お金で苦労してきたこともあってわりと「使えるものはなんでも使う」ことに抵抗ないように見えるんです。自分の家で自給自足しようとしたり、当主自ら修繕や掃除したり、父親が嘆くほどに常識やぶりのことをやっている。だから新九郎の中で筋が通れば前代未聞のことをしちゃいそうな感じがします(歴史にくわしくない人間が勝手に想像しています)。汚い手を使ってでも、といういわゆる闇堕ちの展開ではなくて、魑魅魍魎が跋扈し筋の通らない混乱の時代に彼がどう自分の筋を見つけていくか、変化させていくか、という展開になるのかなと。そのひとつの答えが第一話冒頭に繋がるとか。

 

だからと言ってその筋が自分勝手であったり歪んでいれば闇堕ちと変わらない嫌な気持ちになりそうです。これまででそんな人ではないと描かれているのでそのあたりは安心して読んでいるのですが、今回の分一徳政の一連もそう思わせてくれるエピソードでした。

生涯ただ一度の借金踏み倒し。私にはどこまでが史実なのかはわかりませんが、ひとつの史実をこのように膨らませたゆうき先生が新九郎を嫌な奴にはしないよなと思えたんですよね。ギリギリまで自分の家の借金をちゃんと返済しようとしたうえで、被官に泣きつかれての苦渋の決断。いざとなれば自分のプライドを曲げる行動をとることができるが、その悔しさや踏み倒された側の気持ちは忘れない。一方で重荷を下ろせたことにホッとする人間らしい一面もある。きれいごとだけじゃ生きていけない世の中を悔しさ忘れないままで生きていく新九郎へのやさしい目線を感じたような気がしました。

 

 

 というわけで小笠原殿の「こーゆーのはダメ」な婿像から脱却できた新九郎に縁談が?と思えば就職と同じくこちらもそうなるんだかならないんだかわからないし、当人たちに色っぽさとかときめきとか生まれてないのがかほほえましくていいです。ぬいちゃんが「意識してしまう特別な人」ではなく「いつの間にかなじんでいる親しい人」なのでほどよく新九郎の肩の力も抜けそう。地味な苦労をし続けてきた彼をずっと見てきた読者としても穏やかに歓迎したくなる組み合わせです。でも性格違いすぎてまた悩んだりするのかな~。

 

 あと今回は新品の直垂を就職祝いにくれる姉上の場面もお気に入りです。新九郎の「香までたいてあるぞ!」ってよろこびかたも弟って感じで和みつつもホロリとしました。がんばって当主やってる新九郎を弟にしてくれるんですよね伊都姉上。ぬいちゃんのことも気に入ってるようで大変結構じゃないですか。ふたりが家にそろうとどんな感じになるのかも楽しみです。あっでも独立しちゃう可能性もあるのか。それはもったいないのでしばらくふたりで新九郎もんでほしい。