さわやかサバイバー

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ワールド イズ ダンシング 第1巻感想

少年期の世阿弥を描く漫画、ワールド イズ ダンシング(三原和人 講談社)第1巻の感想です。

 

続きからネタバレ感想

Twitterで上げた各話感想をまとめたものです。

 

第一話 よい!

猿楽の家に生まれたというだけの鬼夜叉。彼を成長させていく「なぜなのか」と問う力はすでにある。けれどもそれが舞のよさがわからない苦しみから来ているのが切ない。だが…
生きづらさを抱えた人が好きなことを通じて世界と繋がりを見つける話にはやはり惹かれてしまう。

 

第二話 身体

何も持たない者にも最後に残る、という点で身体を使う表現は境遇の差を超えて響くのかも。満たされれば失われるそれを求める鬼夜叉の渇望も、芸には対価を払えという観阿弥の矜持も、生きていくために金が必要な白拍子の事情もわかる。誰もが自分勝手で仕方なくてやるせない。

 

第三話 YARUSENAKIYOの乱舞

言葉にできない気持ちを抱えるしかない時、人は舞うのだと知る鬼夜叉。白拍子の願いを引き継ぐように、手の先が重なる絵は祈りの形のよう。叶わなかった夢をこの世にあらわす、境界を超える舞が死人を呼び起こす程であるというのも美しく恐ろしい。

 

第四話 血の気

鬼夜叉、身体の動きを目下開拓中。でも父にはなかなか認めてもらえない。「見えないものが見えてきている気がする」という、それ単体ではフワッとした鬼夜叉の感覚を、関所の男相手に「無いはずの刀を見せる」反転した形で補強しているのがスマートだ。

 

第五話 君が好き

謎の指導者らしく声だけ残し姿を消える…んじゃないんだ?去り際の親切笑っちゃう。「能き(はたらき)」「観世なら世の音を観たまえ」など、能関連の言葉が物語の中に意味を持って組み込まれてて、舞の世界と私たちの世界を繋げてくれる。知識があればもっと見つかりそう。

 

第六話 虹の袂

片腕のないサツキにとっては商売だったように、能力や美しさを発揮できる形を舞にかかわる以外の普通に生きている人々からも知っていくのはまさに「ワールド」イズダンシングだ。強者弱者で分けられてしまう世の中で、それ以外の視点から知っていく世界が眩しい。

 

第七話 喰う

父は自分が不在だろうが気にしない、新しく学ぼうがどうでもいい、と鬼夜叉は思っているけど、舞を通して伝わっている。その様子と新熊野にかける気合の両方を見ている読者だけが観阿弥が鬼夜叉にかける期待を知っている事実にドキドキする。

 

第八話 新熊野①

前回の子を見る父から反転して今回は父を見る子。認めさせてやる!と息巻いていたものの、父の舞の大きさを知った時、貴重な学びの時間だと思える鬼夜叉がいい。舞を知って初めて、舞を通じて、親子の対話ができたかのよう。
畏怖というより身に深く染み渡るような神々しさを伝える絵が、この舞の意味を私たちに伝えてくれる。