さわやかサバイバー

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バンオウ-盤王- 第4巻感想

twitterに上げたバンオウ-盤王-の感想をまとめたものです。

 

続きからネタバレ感想

 

第25話 伊津道央

 月山さんにとって伊津さんは精神的な師匠といえるくらい大きい存在だと判明すると同時に、そんな人に勝ちに行けるようになった成長がわかるのスマートかつグッときます。敬意を忘れない人だからこそ崇めてしまいそうだけどそんな弱さはもうないんですね。

自分の手は読まれてあたりまえ、でも戦い方を変えさせたのなら方針は間違ってない、と相手を敬いながらも力量を冷静に判断して勝つための道筋を探す様子がかっこいい。

吸血鬼である強みと弱点を中心とした特殊な面白さを中心に展開していくのかと思ってたら、それらをふまえたうえで王道の成長物語まで組み込まれてきて、ちょっともうどこまでいくの。

 

伊津さんが長年プロでいつづけてくれるだけで長寿の月山さんには支えになってくれただろうと思っていたんですが、戦う姿勢で活を入れてくれる導き手だったんですね。

表舞台に出られなくてもずっと純粋に将棋を好きでいられるのはとんでもないよなと思っていたのであの月山さんでも熱が停滞するような時があったのには驚いたけど納得もしました。

そんな時にプロの中でも日が当たらない人生を歩んで、それでも勝利への執念と挑戦者の気概を忘れない人がいたら…そりゃあ元気づけられるし尊敬するよなあ。

 

第26話 戦い続ける者

 ほぼなにも語らないままで読者に存在感を与えた伊津さん。内面が語られてみれば…こんなのもう大好きになるって…!
月山さんも伊津さんも盤上が他の何より生を感じられる場所なんですね。「ここしかない」「ここだけが」熱意の源と月山さんが引きつけられる理由が分かった気がします。

スポットライトは当たらない、他者から賞賛を与えられることもない。対局に付随する"ごほうび"は得られない。よろこびは盤上にのみ存在し自分だけがそこで得たものを知っている。

長くプロやってくれるだけでも月山さんにとってはありがたいよな~と単純に思っていましたが、伊津さんの環境は月山さんと通じるところがあって、だから共鳴するように月山さんは引きつけられたのかも。

自分の中にのみモチベーションの源があるからタイトルの有無や若手との比較では引退の理由にならない。だからといって超然としているわけではなくライバルが引退していく寂しさ心細さも感じている。

そういう人間くさい面があるからこそ、それでも続ける情熱や執念の尋常じゃない強さが際立ちます。それしかない人間の切なさ、それでも戦い続けてきたたくましさ、容易ではなかった道のりを知ればもう大好きになるって…!

 

今回、伊津さんについて本人と宮内父の両方から語られていましたが、世間的には同じ時代の光と影みたいな存在だった二人がお互いを尊敬しあっているのがまたいい…

 

月山さんにはもちろん勝ってほしいんですが、伊津さんにも負けてほしくなくて困る。最後のコマ、涙のようにも見える汗に心が鷲掴みにされます。伊津さんをずっと尊敬してきた月山さんとの勝負だからこそ得られるものがあってほしいです。

 

宮内父、あれだけピザ食べられるんならまだまだ若いよ。回想場面、切ないんだけど伊津さんの靴が丸くてかわいいんだ…

 

第27話 最高の対局

 血を吸う吸血鬼は人から奪う側の存在というイメージがあるけど、月山さんは人に希望を与えるばかりなんですよね。圧倒的光属性の吸血鬼。他にいないよ。
口に出すことが許されない50年の思いが盤上で伝わり、その返答に月山さんも報われて涙。

いい最終回だった…最終回じゃない。
いやでも一番尊敬する相手と戦って、この先どうするのってくらい盛り上がって理想的な終わりかたしちゃったら、えっホントにこの先どうするの?

「伊津さんをずっと尊敬してきた月山さんとの勝負だからこそ得られるものがあってほしい」と前回の感想に書いたんですが、もう願った以上のものだったー!こんな試合ができれば悔いはない…みたいに伊津さんがプロをやめる展開だってあるんじゃないかと思ってました。

引退どころかかつての勢いを取り戻すような力を引き出すなんて。しかもこの名勝負をプロの舞台であなたと続けたいと。私はこの勝負の決着と月山さんのこの先しか目が向いてなかったけれど、伊津さんの「この先」を見せてもらえて感動しました。

たとえ世間的に光が当たらない場所でも真正面から向き合っている人は素敵だよ、ってだけだなく、対局という交流を通してその先に光があると描いてくれるバンオウが好きだ…

 

ここ最近、実戦の戦いかたを身に付けて成長している月山さんが印象付けられたところで変わらない「楽しむ心」がこの結果を引き寄せたと示されたのもよかったです。

誰より楽しんでいる月山さんが相手や周囲を巻き込んでいくのは最初から一貫してるんですよね。この作品の明るさやあたたかさはこれが源だからじゃないかなと思います。

 

将棋教室の「二人ともがんばれ!!!!」俺達がいるぞ。
めちゃくちゃシンクロしました。いやマジで作品上の反応と読者の感情が乖離しないって大事ですよね。

突然そんなふわっとほほえまないで宮内さん…落ちるから…

現役プロにはアマチュアで快進撃続ける月山さんを排除しなければという意見もあっただけに宮内父が歓迎したいと言ってくれたのはうれしかったです。現役じゃないから言えることかもしれないけど、現役の中にもそういう人が出てきてくれないかな。

 

前回ラストが涙のようにも見える汗を流す伊津さんだったのと対になるように、今回ラスト、涙とも汗とも取れるものが顔をつたう月山さん。

伊津さんのそれが心の叫びのように生き様をドンとぶつけてきたのに対し、月山さんは充足感か伊津さんの申し出に応えられらない寂しさか、様々な感情があふれでたようで前回とは違う方向で胸が締め付けられました。

 

第28話 月山と愉快な仲間たち

 アンナちゃん、生き方を選べる自由を教えてくれた月山さんが隠れて生きるしかない吸血鬼だと知ったら吸血鬼の印象変わるんじゃないかな、正体バレの時に影響するエピソードかも…とか深読みしてたら「つまり将棋が最強」「あたりまえだろ」あっなんかアホな感じで意気投合しちゃった。

将棋を通して人のあたたかさも知って「将棋いい話」で終われたでしょ、なんでいい話で終わってくれないの。壁貼りつきお兄ちゃんがダメ押しでハチャメチャにしてくるし!4コマも使って徐々に近づいて来るんじゃないよ!どの口が「無闇やたらと目立つものじゃない」とか言ってたんだよ。

 

自分と違って人間は好きに生きられるんだからいいじゃないか、で思考停止してもおかしくないのに、すぐに短い人生だから間違えられないのかも、自分が無責任に口出しすべきじゃなかったってかえりみることができる月山さん本当に人間ができてるよね…吸血鬼だけど…

教団は脅威なのかゆるいのか…世界規模らしいけど世界規模でゆるい団体って逆にすごい。だいたい報酬だって活動資金名義とかじゃないんだ。給与なんだ。もう会社じゃんよ。犬の散歩のついでに仕事してる社員そのままでいいんすか。読者的にはそのままにしておいてほしいけど。

 

第29話 そして本戦へ

 快進撃を続ける謎のアマチュアに親友でもお兄ちゃんでもない記者が迫る!
「あることないこと」って言うけど、この鈴木絶妙なタイミングであること挟んでくるからタチが悪いぞ。仕事ができる訳だわこの野郎。
そして突然のプレイボール。ばか!コラッ!

言ってない言ってない言ったの天丼とか、ベタなナレーションで竜王戦決勝トーナメント開始を煽ってからの野球場とか、もう読者は手のひらの上でコロッコロですわ。テンポ感の匠。

 

七島さん、また濃い人が!(歓喜)サドルの高さが合ってないのがいかにも実家のチャリって感じ。インパクト強いけど、華々しく登場した星谷くんがあっさり退場したように新堂さんの前に倒れて彼の強さを見せつけることにならないだろうか。

というか月山さんのほうが昼間に野球みたいな激しい運動をして倒れることにならない?しかもピッチャーはアンナちゃんだよ?野球知ってるか知ってないかわからないけど、あの怪力ではどちらにしろ無事じゃ済まなくない?

吸血鬼とハンターが対峙してこの方面で命の心配する羽目になるってだれが想像できんのよ!(ほめ言葉)

 

第30話 将棋指しの休日

 幕間回かと思いきや、将棋教室のみんなは月山さんに一息つかせてくれるホームだと再確認できる回でした。野球はホームに帰る競技なだけにってやかましいわ。
そして天草くんのホームも。勝つことだけが大事な天衣無縫タイプかと思ってたのに試合直前で人間性見せてくるのずるい…!

正体バレの危機!→お兄ちゃんが来て爆速収束
人間ばなれした身体能力!→草野球でツルっと出たしスルーされた
おいしい定番イベントをサクッと終わらせるのにためらいがないバンオウ。そのへん特に重要視してないってことなのかな。吸血鬼だからこそ、の要素は別の部分で書かれてますもんね。

「ものすごく運動神経がいい!!!」直に見てコレ!ダメだぁ~!狩るもの狩られるものが正体知らずに交流、も定番イベントだけどスリルが霧散してるー!初登場時の怖いハンターはどこに行ったの。
×「仕事はできる」
〇「アレクサンデルが優秀」
だったのでは…

元甲子園球児だったのでアンナちゃんの球とれる室田さんもめちゃくちゃ笑いました。なにその当たらねばどうということもない的理論。やさしい人が集まる小さな将棋教室がいつの間にか人外クラスホイホイになってる。

 

天草くん、負けたこと自体は恥じるけどそれを人に言うのはなんとも思わないってとこ描かれてたじゃないですか。勝つことへの執念は並外れて強いけど、俗っぽいプライドには執着してない感じの。それは浮世離れしてて身近に感じられないことにも繋がってました。

そこに「おじいちゃんの将棋で勝つから」だもんなー!学校とか世俗的なものをどうでもいいと思ってるんじゃなくて、それよりも大事なものがあるというだけ。それほど好きになれるものに出会わせてくれてありがとう、とここ一番の勝負の前にちゃんと言える子だった…そりゃおじいちゃん泣いちゃうわ。

そんで読者も肩入れしちゃうわ。毎度毎度試合するどちらも好きにさせてくるよねえ~!

 

第31話 決勝トーナメント1回戦

 負けずぎらいなのは納得だけどそれが負の原動力になってないのが稀有なのよ月山さん…
「本当の月山元」と指せると思っている天草くんに対し彼の知らない元四郎としての戦い方を取り戻した月山さん、戦法の件も含め月山さん優勢で始まったからこそ苦戦フラグにしか思えなくて怖い…!

そりゃ天草くん相手に一筋縄で行くとは思ってないけど!畳みかけられると不安も倍増しますよ。お兄ちゃんもそんなはしゃがないで!というか名目上でも仕事じゃないと試合会場入れないと思うんだけど対戦前の月山さん写真オンリーで何をどうするつもりなんだ。帰宅からのくつろぎモード入るの早えな。

 

天草くん、注目されてますねさすがですねとお決まりの社交辞令かと思えば「僕が注目されてるのはあたりまえですよ」がサラッと出るのがいいなあ。

若さゆえの不敵な態度にも思えるしそういう部分もあるんだろうけど、勝負そのものを重要視してそれ以外の世間体や評判には無頓着な部分が描かれてたから、これも自慢じゃなくて素直に思ってるままを口に出してるだけなんでしょうね。

そしてスッと真剣な顔になりSKAYが自分だと明かす。情報を明かしフェアに戦いたいという真摯な思いと、あの時は勝った、今日もそのつもりだという宣戦布告の意図が込められているように思えます。

そのまま流してしまいそうなごく普通のやりとりから普通じゃないひととなりをのぞかせて対局の高揚感を高めていく手腕が巧みです。わざとらしさが全然ないのに自然と読者の気持ちを盛り上げてしまう。

 

「オレはデビューから推してますー」これ絶対「ますぅー」って感じで言ってるよね。あいかわらず楽しそうで名前もわからない将棋教室の人たちが愛おしくてしょうがない。本筋を邪魔せずクスっと笑える息抜き入れるのが上手すぎるのよバンオウ。

四強の話、紀州さんが以前言ってた人気者の群雄割拠状態に近くなってるのかな?月山さんが勝ち抜いていったとしたらそれをかき回すことにもなるはずで、その時の紀州さんの反応も気になります。

 

第32話 将棋の天才

 見開きカラーかっこいいー!才能という鎧を持たず戦場に乗り込む月山さんの危うさと勇敢さが表れているようです。


本編、才能や闘志、天草くんの強さの理由が開示されていくにつれ、その勢いのままいつのまにか月山さんが「ミスを防げば」と受け身にならされているのが怖い…!

そのうえ時間という武器さえも潰していくラスト!二段構えの恐怖ってさあ!盤面で形勢がわかるほど詳しくないんですが、ドラマがしっかり局面の移り変わりを伝えてくれて読者が一緒に盛り上がれるのすごい。

時間とミスというと予選1回戦の町野さんとの対局を思い出します。あの時は会場やプロとの戦いの空気に呑まれて月山さんが自分からミスをしてしまう形でしたが、今回は天草くんの実力で追い詰められているのがさらに危機感を煽ってきます。

町野さんの時は粘って勝てたけど今回粘るにしてもその時間がないという…ウワー!一足飛びに道を見つけられる天才に対して、時間をかけて粘るというのは凡才が取れる数少ない戦い方なのに…

 

最初のライバルだからか天草くんと月山さんは初対戦とオンラインの再戦の見開きなど、対になって描かれている場面がありますよね。自分より強い相手はいないんじゃないかと思っていた時に強者とめぐり会って本気でぶつかる楽しさを思い出す、というのもリンクしてるように見えました。

新堂さんに出会って覚醒した天草くんが成長し、月山さんが久しく出会えなかった全力を出せる相手となる、というのも因縁ぽくていいです。

この師弟、新堂さんは天草くんに対して「いつか追いついてこい」くらいの距離があるのかと思っていたんですがめちゃめちゃ評価してるんですね!「唯一認めた俺より才能のある棋士」って。

そんな弟子相手にバチバチに戦いたがっているというのもいい…公の場では穏やかだしポーカーフェイスなのに強い相手と戦いたい欲求が渦巻いてるってギャップたまりませんね。そうだよね第一線でずっと戦ってきた人なんだもんな。

あと公の場では「私」だけどプライベートでは「俺」なのもたまんなくないっすか。

話がそれました。第1話冒頭からすると結果はやっぱり…?なのですが、今回描かれた師弟関係をふまえるとどんな気持ちで待ち構えるのか、それも楽しみです。

 

 

回想場面が入るのは勝負ものの定番とはいえ、単に感情移入や共感のためではないんですよね。なぜそんな戦い方ができるのか、逆境でなぜ力が発揮できるのか、その場その場においての裏付けにきちんとなってる。

それが基本なのかもしれないけど、バンオウめちゃくちゃうまくないですか?むずかしい言葉は使ってないし、エピソードだけ抜き出したら定番とも言えるくらいで目新しくはないんですよ。

戦法とか、もっと具体的に描写して強さの説得力を出す方法もあると思います。天草くんの「読みの深さ」ももっと突っ込んで描くこともできるはず。

話が専門的になって停滞することより演出で進めることをバンオウは選んでいると思うのですが、それでも雰囲気だけにはならない説得力が生まれているの、これどういう種類の上手さなんだろう。

テンポや読者の感情含め、コントロール力で全体が底上げされてる印象です。

 

第33話 一分将棋

 時間の枷をはめられて天才が有利な状況にどう挑むのかと思えば、300年の積み重ねにまだ武器があったー!新しい段階に進むのかとも思ってましたが凡才のまま食らいつくのか…!それぞれの強みが発揮されて、環境も才能も違う二人が「今ここ」で唯一無二の相手となる終盤は熱い…!

勘って過去の経験から無意識に判断してるものって話ありますもんね。300年分の厚みはそりゃ強力だ。

天草くんの持ち時間を自分の思考に当てるのはまるで彼の時間を吸い取っているようで、なんとなく吸血鬼要素感じました。自分の時間が尽きたあとだし、なおさら相手を養分にしてる感じ。

因縁も執着もめちゃくちゃ好きなんですけど、過去のなにもかもが消えて今この瞬間相手との勝負にのみ没頭できるのってとても幸せなことなんじゃないかと思います。人間の若き天才と凡才の吸血鬼、そんな大きな違いすらも超える瞬間を作り出せてるんだもの。

大きく違う二人がそれぞれ違う武器を最大限使ってともに作り上げ辿り着いた対等な終盤ってわけですよ。熱いに決まってますよ!うわーどっちも勝たないかな!!

 

 

番外編2

 たった3ページの番外編に読者が求めるものをピンポイント濃縮で出してくるバンオウ怖い!めんどくせえ知り合いだとしても徹底的に規定通りの接客をしてくれるとか、一周回って手厚いサービスなんじゃないだろうか。

勝手にそう解釈して後日満足気に語る鈴木にうんざりする月山さんがいてもいい。

んとに鈴木は横顔かっこいいんだよなあ!!(素直に認めるの悔しい)
ところで歯ブラシ買ってたけど必要なのかな。血だけ飲んでてもやっぱり汚れるとか、やろうと思えば食べ物食べられるとか、そのへんの生態ちょっと知りたい。

 

特別番外編(コラボ宣伝回)

 すがすがしいまでのコラボ宣伝回なんだけど会話の内容自体は通常営業なの笑う。テンションこそ通販番組みたいになってるものの、いつもの将棋の変態と押しかけお兄ちゃんやないか。

逆に通常営業でちゃんと宣伝回になってるのがすごい。
月山さん将棋のこととなると鈴木相手にもあんなかわいい顔が出ちゃうのがダメ。バカッ!そんなだからなんやかんや鈴木に気を遣われるし、みんなに愛されるんだよもうバカ!