さわやかサバイバー

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バンオウ-盤王- 第6巻感想

twitterに上げたバンオウ-盤王-の感想をまとめたものです。

 

続きからネタバレ感想

 

第43話 解放

 まともな精神では耐えられないほど長すぎる寿命、まともでないほど将棋にのめりこむことで月山さんは留まれたのかも。ピュアな「好き」だけであれほど研鑽を続けられる?と思っていたので「そうしないと生きられない」ほどの渇きがあったのは納得です。普段とのギャップ、よいですね…

棋士という人にはリスペクト深くて謙虚で慎み深いのに、その人たちが指す将棋に対してはむさぼらんばかりに食いつかずにはいられないというの、いいよね。
敬意が変わることはないだろうけど、自分の欲望を認め受け入れた月山さんの指し方やモノローグがどう変わるのか楽しみです。

 

鈴木、自分のすべてで戦えるようになった月山さんを完全体と言うのはまだわかるけど、はしゃぎ方が魔王復活なんよ。ジャンルがしっちゃかめっちゃかになるんよ。楽しそうでよかったよ。

前回のツッコミ待ちの態度といい、人間社会でいい暮らしできてるくらいには本当はいろいろちゃんと見えてる鈴木が月山さん相手には常軌を逸したはしゃぎ方するのも彼なりのガス抜きなのかな。月山さんと違い自覚的だけど、どこかおかしくなってないとまともに生きられないのは一緒なのかも。

 

いままでの対局を思い出す場面で宮田さんが目立つ位置にいるのがうれしい宮田ファンですよ。あ、埼玉代表もちゃんといるんだ。

 

第44話 ハンターアンナ

 TRUTHタンクトップ、前回の「月山さんが真の力を発揮する」ってことだけでなく「アンナさんが真実を知る」ことにもかかっていた…?
これまでいい交流ができてたから正体判明しても穏やかな対話でなんとかなるかも?と願ってたんですが…なんとかならんか、バンオウだし…!

読者的にはこのままギャグ展開で正体回避しつづけてもらってもよかったんだけどー!
ベスト4になっていよいよ頂点が見えたからこそ、心おきなく最終決戦に向かうためにも済ませておかなければならない禊なんでしょうね。でもできるだけ穏便に済んでほしい。転職相談した仲じゃない!

 

将棋教室の資金問題が解決する→月山さんが自分のために全力を出せるようになる→全開になったからこそアンナさんに察知される、というこれまでの物語の結果が影響しあい、なるべくしてなった展開なのがさすがです。

「月山、なにか落としましたよ…これは血液パック…!?」とかで気付くんじゃなくて(ひどすぎる)

 

アンナさん、カタカナ混じりの正気を失ったようなしゃべりかたしてるのが心配。条件反射的にこうなってる?これ本当に彼女がしたくてしてることなんだろうか。誤解が解けたら「あなたは自由に自分のやりたいことが選べる」と月山さんが教えてくれたこと思い出してほしい。

 

しかしアンナさんが単独で吸血鬼判別ができるとなるとアレクサンデルは単にかわいい担当になってしまう。あれ、問題ないな。

 

第45話 月山vsアンナ

 いやよかったよ、よかったんだけども「今まで全くそんなそぶりは見せなかった」???「気づいていて泳がされた…?」???そんな、全部のツッコミを読者にゆだねられても困る…!!
トラックの運ちゃんに幸あれ。

この二人が争う展開になったら辛いな、とは思っていたけど結構な力技ハートフルだったなー!

「何を言っているんだ!?」「ものすごい殺気で襲ってきておいて何を言っているんだ!?」月山さん二回も言ってて笑う。気持ちはわかる。そのあとの仕事だから好き嫌いはないけど体に染みついた本能で襲っちゃったゴメンねも本気の殺意向けられた方にとっては「何を言っているんだ!?」だよね。

 

クールダウンのきっかけこそ力技だったけど、アンナさんが月山さんを友好的な吸血鬼と判断する根拠はこれまでの交流の中にあったし、そう考えられるようになる変化もちゃんと描かれていて、心理面のドラマはやっぱり丁寧なんですよね。

「どこか抜けているキャラ」として愛されてきたアンナさんを刷り込まれた教えから抜け出せない人ではなく、自分で考え判断できる人だと描いてくれたのもうれしい。登場人物を尊重してくれる漫画はいい漫画。

月山さんにとって和島将棋教室が心安らげる場所となり、そこでつちかわれた温かな人間関係がアンナさんを変えるきっかけとなり、ってマジで「つまり将棋が最強」に帰結する…?

どこでもなんでもいい人もいれば悪い人もいるので、和島先生や月山さん含むあそこの人たちの善性がこのやさしい結果を引き寄せたんだろうな。やっぱりそんなところから月山さん離れてほしくないよー!

 

長くオタクやってる人間だけど美男美女が二人きり個室で向かい合って全然色気がない展開を普通にやって受け入れられてるのもニコニコしちゃった。いい時代の変化だ。
オチが「ものすごくおじいちゃん」なのも好き。

 

第46話 セミファイナル

 いい筋肉ついてても走りかたが美しくなるわけじゃないんだなあ…
出るたびにクセの強さが上乗せされていく七島さん、月山さんがふっきれていい表情をするようになったぶん、七島さんのほうが怪物のオーラ感じます。真っ黒フキダシで「好き」って、どういうベクトルなんすか…

読者としてはどんな戦いが見られるのかとか月山さんの新たな面を引き出してくれるんじゃないかとか、ワクワクするので怪物感マシマシなの大歓迎です。全盛期の姿また見たい。

 

配信も人気の岩ちゃん、さすが角の立たない受け答えが上手い。
「なるほど!! それは違うと思いますけど そうなんですね!!」
相手を持ち上げる言葉で挟むことでサラッと否定してるのを気付かせない高等テクだぜ!爆笑した。

あと座りかたキレイね。脚の筋肉がないと足を閉じて座り続けられないらしいからちゃんとトレーニングの成果出てるのでは。何の話?

 

アンナさんとのこと鈴木と情報共有してて安心しました。「なんかよくわかんねえけど」「なるほどよくわからん」雑な兄弟だな!たしかにそうとしか説明できないんだけど!それで鈴木のことはアンナさんに教えたの?まあ…鈴木は大丈夫か…

 

これまで戦ってきた人たちがこの対局を見守っているページ、すごくいいですね。それぞれの戦いを思い出してしみじみしつつも高まります。
そこに水玉のTシャツ着るしサボテンにお花咲かせられる人だとかカワイイのてんこもりをしていく滝川さん好き。

宮内さんのファンでもあるのでね、どうしても気持ち悪い反応が出てしまうというかね。あっ、ネクタイ締めるようなお仕事なんですねフヒッ。

 

第47話 月山VS七島

 「勝利に貪欲」から「将棋に貪欲」な戦い方へ。変化を一言で表すいい言葉!
いままでも戦いそのものを楽しんでいたし、これからも勝利を求めるのは変わらないはずです。でもきっと挑む姿勢からもう変わってるんでしょうね。そんなん祝福したくなるし先が気になるじゃないのー!

作者はどんな話か一言で説明できる漫画を作れ、みたいな話があるじゃないですか。でも実際自分の作品でも芯を見つけるのは難しいと思うんです。今回の「勝利に貪欲」から「将棋に貪欲」の鋭さと短くまとめる力を見てあらためて底力を感じた気がしました。

どこが売りなのか的確につかんでいて、こう見せたいと思う方向に読者を誘導するのがまたうまいんだろうなー!具体的なテクニック知りたいぜ。

 

そんな核心部分を作品中で指摘するのが伊津先生なのがうれしい。前は月山さんが一方的に尊敬していたけど、対局で互いの心の深いところが通じ合ったんだなあ…
これ伊津先生は月山さんの種族も事情も知らずに対局だけでここまで通じ合えてるというのがグッと来るんですよね。

将棋教室の人たちの月山さん理解度もすごいよね。将棋そのものは「教えてAI様!」なのに。むしろ月山さんを解説してくれるほうが多いっていう。

 

鈴木はあいかわらず鈴木なんですけど、今回わりと転換点だったのでは?いままで月山さんの相手としての人間にしか興味がなかったのが人間そのものに興味を持ちだしたのは今後に与える影響大きいような気がします。たとえ「やられる相手のことよく知ってると楽しさ倍!」みたいな理由だとしても。

月山さんとの対局を経て変わる人はたくさんいたけど、鈴木も直接的ではなくとも影響を受けて変わるのかな。他の人とは違って紆余曲折がすぎるけど。長寿からくる退屈があの性格を作っているところはあると思うので、興味を持てることが増えて楽しみができるのは結構真面目によかったなと思います。

恒例のヒャッハー鈴木にこんなしみじみした感想抱くことになるとはねえ…

 

一方、絵で今回引きつけられたのは目の表現でした。盤上に広がる世界を反映してか、それとも湧きたつ心が表に出たのか、サングラスを通してもなおきらめく月山さんの目に対し、とげとげしく濁り攻撃性をあらわにした七島さんの目!本当にどっちが化物なんだか!たまらん…

天草くんも負けず嫌いモノローグあったけど「自分が一番じゃないと!」と「俺より強いやつが一番嫌い…」じゃだいぶ印象違うよね。なんというか七島さん、粘度が高い(大よろこび)

 

第48話 自信

  うひー期待値上げてくるー!他でもない七島さんが月山さんと新堂さんを重ね合わせて来るから、二人がどんな風にぶつかるのかますます楽しみになるじゃないですか。いやまずこの対局の勝敗がどうなるかわからないですが。

これまで月山さんと対局した人はいい方向に影響受けてきたじゃないですか。「思い出したくもない」「屈辱」という言葉が並ぶ新堂さんとの対局をも月山さんは塗りかえてくるんでしょうか。

月山さんの浄化パワーを見せてあげなさいよ!という気持ちもあるし、あのドロドロも間違いなく七島さんの力の源なのでこのまま抱え続けていてほしい気持ちもあります。

書いててなんだけど、さわやかな七島さんを想像してウッとなっちゃったので変わるにしてもあのクセをいい感じに残して変わってほしい。

 

かき乱し消耗させる狙いの七島さんの選択を月山さんは「名人が自分相手に本気を出してくれている」と自信の源にする。
月山さんが「夢のようなことだが」とボルテージ上げていく攻め合いの状況が七島さんに悪夢を思い出させる。
戦いへどのように向き合っているか対称的に表れているの、いいっすね…

 

日々衰えていく自分を感じながら必死に食らいついている…みたいなモノローグが以前あった気がするけど胃腸の強さはなにより若さの証拠だと思いますよ伊津先生!選ばれし強者だよ!滝川さんにちょっと分けてあげてほしい。

七島さん相手におだて言葉でサンドイッチした「それないっすわ」を言えてた岩ちゃんが伊津先生になんも言えなくなるのすごい笑った。無言無音のコマなのに威力が高い。二人ともいい考察してくれてるのに飛んじゃうよ。

パフェグラスを持つ伊津先生の小指がベリベリキュートでした。

 

第49話 最強の棋士

  エゴだけで突っ走ってきたわけではなく、現状を認められず苦悩したりそこから逃れたいと思う弱さもあったと人間性を明かされればグッと心を掴まれるじゃないですか。そこからの「最高の景色だ」ですよ!やっぱ一筋縄で行かねえのな!とは思うけど七島さんの厚みはずっと増したわけで。上手い…

年齢を言い訳にせず不断の努力で返り咲いた、その結果を受けて「俺はまだやれる…!」とか前向きな言葉で締められてたら美談で終わったはずなのに。敗者を見下ろしての「最高の景色だ」て。

すごい性格…とは思いましたが確かに美談で終わるパターンはありきたりかも。まっとうな方向で並外れた努力ができるけれどそれを支えたのが許せない、耐えられない、吐き気がする、といったドでかい負の感情というねじれが七島さんならではの個性になってますよね。

だからって報われたときの反応までアレになるこたねえだろと思わんでもないですが。そのくらいの強烈ななにかがないと生き残れないのかもなあ。

 

負の感情の中に「弱い俺が許せない」という自分に向けたものがあるのが切なくてこれもまた心掴まれる部分です。突き刺さる刀のイメージは外からの評価だけではなく自分で自分に向けたものもあったんでしょうか。そう考えると血まみれの刀を抜いたイメージが一層熱い。身を切って己を変えた人なんだ。

 

そんな中に女の子走り入れてくるの勘弁してもらえませんかねぇ!感情の持って行きどころに困アアーッ!突如ハーフアップ祭りがー!!ハーフアップ神輿がすべてをなぎ倒して行きよったぁーーー!!

 

伊津先生が今回の解説役なの、月山さんサイドで考えてうれしいなーと思ってたんですけど、ピークを過ぎたと言われても戦い続ける人同士という七島さんサイドの意味もあったのか…!いやーこういう配置もぬかりない。

月山さんとの対局で「落ちた」と言われてからの厳しさと、それでもなおタイトルを求め燃え盛る闘志を見せた伊津先生が語るからこそ、七島さんの道のりが尋常でなかったと伝わります。

おだやかに淡々と語る口調がおおげさにする必要がないほど明らかな事実であるとかえって強調するようです。つまりは最後の「今の彼が一番強い」も間違いないということで…
うおお、じゃあ月山さんはどうっすか!行けそう?って聞きたい…!

 

第50話 王者の一手

 なんでもこいと言える自信と実力はまさに王者の風格でカッコいいですねえ!本当にトップに挑んでるんだとあらためて実感させてくれる見事な敵っぷり。
恐れず最大の攻撃で飛び込んでいく月山さんにも痺れますが、それを受けて「あなた」って、七島さんだんだん月山さん認めてきてない…?

まだ自分より下に見ているなら「君」とか言いそうな気がするんですよね…

次のページ「凌げるものなら凌いでみろ」の絵、二人の持つ刀がコマの枠を越えて交差してるのがいい。しかも七島さんはもう片方の手にも刀を握り刃を突きつけている。攻撃の手はまだまだあるという表現でしょうか。月山さんの攻撃を受け止め認めながらも勝つ自信が伝わってきます。

 

一度ピークを過ぎたと見られた人がここまでどっしりとした王者のふるまいができるだろうかと思ったのですが、逆なのかもしれないと考え直しました。波乱なく頂点に立ち続けられたのではなく、自らの力で返り咲いたと自負があるからこそかもしれない。

こんな人に月山さんが全力で挑めること自体がうれしい。将棋教室の資金問題が解決していなかったら負けられないと無意識に守りに入っていたかもしれません。

 

一歩も引かない選択に勇壮さを感じる一方、深読みしすぎかもしれませんがそこに誠実さや切なさも感じました。一度きりと決めた勝負の場で頂点の棋士から「あなたはどんな将棋指しだ」と問われる。身の上を偽ってもその問いに嘘はつきたくない。

ただ一度の機会に将棋指しとしての自分をすべてさらけ出してぶつかっていく、そんな手だったように思えました。

 

「いよいよ俺もヤバくなってきたらしい」
読者の心がひとつになった場面じゃなかろうか「「「いよいよ…?」」」

 

いつもの将棋教室の流れに唐突に差し込まれる「ナカムラ」
いやアンタだったんかいアンナさんの新しいライバル!二度見させるかのようなテンポ感ホント好き。しかし結構濃いキャラなのに鈴木が全部持って行ってしまってかわいそう…

 

第51話 凌ぐ月山

 戦いが進むにつれ七島さんの月山さんに対する評価がどんどん変わっていくなあ!
これまでの対局者は月山さんとの戦いからいい影響を受けてたけどさすがにこの人はどうだろうか…という感じだったのが、ここまで両者が重なってくるとその先に変化が待っているような気がしてワクワクします。

自分に勝利を捧げるための存在かのように見ていた対局前からその強さに新堂さんを見るようになり、そして感情を乗せる戦いかたに自分を見るようになる。
いまは同族嫌悪の形で表れているけど、そこまで感情が伝わるということはここからさらに魂揺さぶられるんじゃないかと期待してしまいます。

ほかでもない名人のこの評価は月山さんのスケールが彼に近づくほど大きくなったと証明してくれるようでもあり、その点もうれしい。実際ギリギリでしのぎつつ「戦えている」「対等だ」と感じられている月山さんは頼もしいです。

七島さんの底力をわかっている伊津先生が月山さんはこのままでは終わらないと言ってくれているのもうれしいんですよね。
その伊津先生が言ってるから間違いないとは思うんだけど最後の「緩み」は罠ってことはないんですよね?ここから反撃なんすよね?おわードキドキする!